色彩
■ 6.眩しい人

「青藍が酒宴に参加しないことを姫たちはいつも嘆いていたのだぞ。私も遠くからしか、青藍を見たことがなかった。」
『あはは。まぁ、ほら、それは、面倒だったというか、ね・・・。』
青藍は苦笑する。
「いつも白哉様の後ろで適当に笑っているだけだったな。まぁ、それは今もだが。」


『おっしゃる通りで・・・。よく見ているねぇ。』
「見る気がなくても、青藍は目立つのだ。青藍が来ると皆の視線が青藍に向く。」
『それはほら、僕は朽木家の者だからね。』


「それだけであれ程注目されるものか。青藍は何処に居ても目立つ。いつもいつも中心にいる。だが、周りの者を吸い寄せるくせに、近くには寄せない。近くに寄ることが出来ても怪我をする。全く、迷惑な奴だ。」
深冬はそう言ってため息を吐く。


『えぇ・・・。酷いよ。迷惑だなんて・・・。』
深冬の言葉に青藍は項垂れる。
「それなのに・・・。」
一度近づいたら、離れることが出来ないのだ。
私はきっと、青藍からは離れることが出来ない。
離れたいとも思えないくらいには、すでに青藍が近すぎる・・・。


だから、困るのだ・・・。
青藍は本当に迷惑な奴だ。
これだけ他人を巻き込んでいながら、その自覚がほとんどないのだから。
深冬は内心で呟く。


「それなのに、どうして私はここに居るのだろう・・・。」
深冬は困ったように言った。
それを聞いて青藍は深冬を見る。
『深冬?』


「青藍は遠いところに居たはずなのに、いや、今だって遠いところに居るのに、どうして、今私は、青藍の隣に座っているのだろう・・・。」
そういいながら深冬は青藍を見上げた。
『それは・・・僕と深冬が近いところに居るからだよ。』
そんな深冬に青藍は笑いかける。


「え?」
『ふふ。こんな風に、手を伸ばせば触れられるくらい、近くに居るでしょう?』
青藍はそう言って深冬に手を伸ばした。
そして、深冬の頬に触れる。
・・・本当は、僕が君にそばに居て欲しいからだ。
君は、知らないうちに、僕に捕まえられている。


それを知ったら、深冬は僕を軽蔑するだろうか。
僕から逃げ出すだろうか。
それは・・・嫌だなぁ。
そう思いながら深冬の頭を抱き寄せる。
「青藍?」
深冬は戸惑った声を上げながらも、青藍に凭れ掛かった。


『ねぇ、深冬。もしそれが、僕の計画通りだったとしたら、どうする?』
凭れ掛かってきた深冬を抱きしめながら、青藍は問う。
僕、ずるい奴だなぁ。
こんな質問、深冬を困らせるだけなのに。
そんなことを思いながら。


「それはつまり・・・青藍が意図的に私との接点を持ったという仮定か?私と青藍の出会いは計画的だったという?」
深冬は腕の中で首を傾げる。
『あはは。うん。そうだね。』


「・・・それは、ないと思う。」
少し考えて、深冬は確信を持って言った。
『え?』
「だって、先に青藍に近付いたのは私だ。私から青藍に話しかけた。霊術院で会うまで、青藍は私を知らなかったのだから、そう考えると、私から青藍に近付いたのだ。」


『もし、あの時僕が深冬のことを知っていたら?』
「それもない。さっき青藍は、私のことを知らなかったと言った。あれは嘘ではなかった。」
『えぇ?嘘かも知れないじゃない。僕は嘘つきなんでしょ?』


「それはそうだが、さっきは違った。青藍は邸の中で嘘は吐かない。隠し事をしている時はあるが。・・・それに、私のことを知っていて私に近付いたのなら、青藍から話しかけるのが、普通ではないのか?」
・・・確かにそうだ。


『それはそうだけど、あの時、僕は深冬に話しかけて欲しくて、あそこに立っていたのかもしれないでしょう?』
「それも違う。あの時は、院生が沢山いたから、目立つといけないと思って、青藍はあそこに隠れていたのだ。私が近づいたら、青藍は一度逃げようとした。」
そこまで見抜かれていたのか・・・。


「だから、その仮定は成り立たない!」
深冬は得意げに言った。


『・・・ふふ。あはは!』
深冬の言葉に、青藍は笑い出す。
そんな青藍に深冬は首を傾げる。
「青藍?何を笑っているのだ?」
『・・・いや、そうだね。その通りだよ。』
「そうだろう?だから、私と青藍が此処に居るのは、計画的などではないのだ。」


いや、まぁ、それはある意味で正しいのだけれど。
僕も昨日までは無意識だったのだから。
『ふふ。そっか。でも、今後は計画的になるかもね。だから深冬、あまり僕を信じてはいけないよ?』
「青藍を信じるかどうかは私が自分で決めることだ。」
『僕が君を騙すかもしれないのに?』


「それならそれで、青藍を信じた私が悪いのだ。だから、青藍に信じるなと言われても信じる時はあるし、信じろと言われても信じないときもある。でも、それを決めるのは、私だ。私が、青藍と向き合って、決めることだ。」
深冬は真っ直ぐに言った。
キラキラと輝くような彼女が、眩しい。


『・・・そっか。じゃあ、もう言わない。』
青藍はそう言って深冬を抱き込む。
「うん。」
深冬は青藍の言葉に頷いて、小さく青藍にすり寄った。


それから暫くすると、邸の中を人が動く気配がする。
それに気が付いて、青藍は深冬に話しかけた。
『さて、そろそろ使用人たちも動き出す頃だ。死覇装に着替えて、朝の散歩とかしてみない?』
深冬を抱きしめる腕を緩めて、青藍は目を合わせながら悪戯っぽく言う。


「あぁ。それはいいな。」
青藍の言葉に、深冬は瞳を柔らかくして頷く。
『じゃあ、一度部屋に戻ろうか。』
「そうだな。」
そうして二人は動き出したのだった。

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