色彩
■ 5.仲良しなふりの理由

「瞳が・・・赤い・・・。」
『え?』
呟くように言った深冬の言葉が聞こえたのか、青藍は彼女の方を向いた。
しかしその瞳は、いつもの青と藍色である。
それを見て深冬は不思議そうな顔をした。


『どうかした?』
「・・・いや、さっき、青藍の瞳が、赤く見えた気がしたのだ。」
『あぁ、突然強い光に当たると、瞳孔が開いているから瞳が赤く見えるんだ。それで赤く見えたのかな?ほら、僕が太陽を見ると、目が赤く見えない?』
そう言って青藍は再び太陽を見る。


「・・・本当だ。」
『ふふ。深冬とお揃いだね。』
青藍は楽しげに言った。
「そうだな。」
それを見て深冬は小さく微笑む。


『・・・深冬、笑えるようになったじゃないか。』
微笑む深冬を見て、青藍は柔らかく言う。
言われて深冬は目を丸くした。
「そうか?」
『うん。昨日から笑えているよ。僕、嬉しいなぁ。』
青藍はそう言って微笑む。


「・・・それは、青藍のお蔭だ。青藍が居なければ、私はこんなに多くの人と関わったりはしなかった。きっと、ずっと、笑うことも出来なかっただろう。」
深冬はそう言って空を見上げる。
「青藍が、私が何者であるのか感付かなければ、父様に会うこともなかった。だから、私も父様も青藍には感謝しているのだ。」


『僕は当たり前のことをしただけだよ。』
そんな青藍の言葉に、深冬は少しむっとしたような表情になる。
「青藍はいつもそうやって私の感謝を受け流す。私が感謝しているのだから、素直に受け取ればいいのに。素直じゃないやつだ。」
『あはは。』
「笑って誤魔化すな。」
笑う青藍に深冬は不満げだ。


『・・・僕は、深冬が思っているほど、いい奴じゃないんだよ。むしろ悪い奴だ。』
深冬を守るためといいながら、深冬を手放すつもりなどないのだから。
思えば、最初からそうだったのだろう。
一目惚れ、だったのだ。
だから、最初から、彼女に触れることが出来た。


「それは嘘だ。青藍はいつだって、私にとって一番いい道を選んでくれている。」
深冬に真っ直ぐそう言われて、青藍は内心苦笑する。
それは・・・違う。
朽木家で預からなくても、漣家に預けることだってできたのだ。


朽木家で預かったのは、僕が、そばに居て欲しかったからだ。
無意識に、そうしたのだとしても。
そう思って、青藍は自分自身で納得する。
僕は、最初から深冬を選んでいたんだ・・・。


『それはどうかなぁ。君はもう少し、僕を疑った方がいいと思うよ。加賀美君なんて、年中僕を疑っているんだから。』
青藍はそう言って笑う。
「豪紀様は青藍が嫌いだからな。」
『あはは!はっきり言うよね、君も。』


「でも・・・豪紀様は、青藍を悪く言ったことはない。」
『え?』
深冬の言葉に青藍は首を傾げる。
「豪紀様は、青藍のことが嫌いで、気に入らない様子だが、悪く言ったことはないのだ。青藍のことを凄い奴だと言っていた。」
深冬は少しおかしそうに言った。
「だから、口で言うほど、青藍のことは嫌いじゃないと思う。豪紀様が正面切って嫌な顔をするのは、青藍相手にだけだ。」


深冬に言われて、青藍は首をひねる。
そうだろうか?
青藍は貴族の集まる席での豪紀の姿を思い出した。
確かに、どんなに嫌な相手でも嫌な顔はせずに相手をしていた。
仏頂面で愛想はないが。
姫たちを相手にしても、そつなく会話をしていたし、うまく躱すことはあっても、面倒でも、それを表に出すことはしていなかったように思う。


・・・あれ?
じゃあ、僕だけ、加賀美君にすごく嫌な顔をされるの?
ん?
でもそれは嫌われているからで・・・。
でも、嫌いな相手だからといって嫌な顔をするのは貴族としては問題なわけで・・・。


「青藍?どうしたのだ?」
考え込んだ青藍に深冬は首を傾げた。
『・・・あぁ、いや、じゃあなぜ僕にだけ嫌な顔をするのだろうと思って。』
「それは青藍のことが嫌いだからだろう。」
呆れたように言った深冬に青藍は首を傾げる。


『じゃあ、結局、そんなに嫌いじゃないってだけで、僕は加賀美君に嫌われているの?』
「そうだろうな。青藍と仲良しな振りをしているのは都合がいいからだ。宴の席などでは青藍の隣に居れば、姫がそちらに流れていくからな。自然と豪紀様は少ない人数を相手にするだけで良くなる。」


『えぇ!?そうだったの!?だって、それでも、加賀美君、いつも結構囲まれているよ!?』
青藍は目を丸くする。
「知らないのか?青藍と仲良しな振りをする前は、豪紀様はあの倍ぐらい囲まれていたのだぞ?」
そんな青藍に深冬は呆れたように言う。


『何だって!?じゃあ、僕は、加賀美君に楽をさせていたのか!騙された!』
「気が付いていなかったのか・・・。」
『だって、僕、次期当主になるまで、ほとんど貴族の集まりになんか参加しなかったもの。たまに顔を出しても、顔見知りと話すぐらいで、女性陣の方には行かなかったし。』


「まぁ、確かにそうだな。私を知らなかったのだから。」
『そうだよ!僕は加賀美君に君という妹が居ることすら知らなかった。・・・これは、加賀美君に一本取られたなぁ。』
そういいつつも青藍は何処となく楽しげである。

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