色彩
■ 4.日が昇り、沈むこと

翌日。
昼寝をし過ぎたせいか、青藍は空が白む頃に目が覚めた。
京楽らに巻き込まれて酒を呑んで寝たにも関わらず。
起きあがって並べられた布団を見渡すと、皆熟睡中の様である。


・・・父上が、枕を抱えて眠っている。
その理由を知らない青藍ではあったが、その姿にくすりと笑みを零した。
橙晴は布団の中で丸まっているようだし、春水殿は布団からはみ出している。
十四郎殿はいつものように、しっかりと布団の中に納まっていた。
寝姿も個性的だ。
彼等の寝顔を一通り眺めて、青藍は伸びをすると布団から抜け出した。


適当に羽織を着て縁に出ると、眺めのいい場所を探して適当に歩く。
よく空が見える場所を見つけてそこに座り込んだ。
『夜が、明けていくなぁ。』
徐々に明るくなっていく空を見上げて、青藍はそんな独り言をつぶやく。


夜が明けて、太陽が昇り、沈んで、また夜が来る。
単純で、平凡で、それが当たり前の毎日。
少し退屈だけれど、そんな日々がどれほど愛しいものであるか、青藍は良く知っている。
それが世界の理であることも。


僕は、この平穏が好きだ。
でも僕は、この平穏を壊す者かもしれない。
咲夜の暴走した姿を見てから、青藍はそんなことをよく考える。
霊妃の愛し子。
それがどれだけ特異な存在なのか、あの時に理解したのだ。
瀞霊廷を何事もなかったように舞だけで修復してしまった霊妃の姿を見て。


・・・僕は、あんなに力のある人を、呼んでしまうのだ。
そして、あの暴走した母上を止めたのは、まぎれもなく僕だ。
僕はやっぱり化け物なのだろう。
それが・・・怖い。


もし、僕が誰かに囚われて、僕の意思でなく、霊妃を呼び出してしまったら?
霊妃が僕を助けるために降りてきてしまったら?
そう考えると、僕は怖くて仕方がない。
僕が呼べば、霊妃様は必ず来ると言った。
だから僕が呼んだら、霊妃様は必ず僕の元に来るのだろう。
子どもを助ける母親のように。


でも・・・。
それで僕が助かったとしても、それが尸魂界にとっていいことだとは言い切れないのだ。
僕を助けるために霊妃様がその他の者を犠牲にするかもしれないのだ。
霊妃様は、受け入れた者しか守らないと言っていた。
それはつまり・・・受け入れられなかった者は守られないということだ。
それを聞いた時、青藍は自分が持つものの恐ろしさを感じた。


霊妃様は、僕らとは違うのだ。
世界の一部であり、世界の調和を図る。
彼女の役目はそう言うことで、僕らがどんなに力をつけようと、抗う術はない。
僕は、霊妃様に愛されたものだから、霊妃様が僕を見捨てることは、よほどのことがない限りないのだろう。


でも、その代り、霊妃様にとってどうでもいいものは、簡単に切り捨てられる。
その犠牲と、僕と、一体どちらに価値があるのだろう・・・。
僕にそんな価値があるのだろうか。
そこまで考えて、青藍は疲れたように、縁の柱に凭れ掛かった。


・・・考えても答えなんかでないんだ。
だから考える必要はないということなのかもしれない。
でも、考えても仕方のないことだと解っていても、考えずにはいられないのだ。
僕は本当に、朽木家の当主になる道を選んで良かったのだろうか。
僕のせいで何かが起こった時、僕は逃げずにいられるのだろうか。
皆を信じて待つことができるだろうか。


・・・信じると言ったくせに、僕は信じ切れていないのだ。
家族も、仲間も、友人たちも。
そして何より、自分自身を。
青藍は内心で苦笑する。


「・・・青藍?」
そんなことを考えながら空を見ていると、後ろからそんな声が掛かった。
『深冬。・・・早いね。おはよう。』
「おはよう。目が覚めてしまったのだ。」
深冬は困ったように言った。


『あはは。僕も。昨日のお昼寝が長かったから。・・・隣においでよ。空が綺麗だよ。』
青藍が言うと、深冬は隣に来て静かに縁に腰を下ろした。
「本当だ。今日も天気が良いようだな。」
空を見上げて、深冬は気持ちよさそうに言う。


『そうだね。あぁ、太陽が昇ってきた。』
まばゆい光を放って、太陽が姿を見せる。
その輝きに目を細めながらも、青藍は楽しげに言った。
そんな青藍の横顔を見上げて深冬は目を丸くする。

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