色彩
■ 入隊初日

・・・何故、僕はこんなに見つめられているのだろうか?
キリトは十三番隊の隊士たちにじっと見つめられていることに、内心で首を傾げる。
入隊式も無事に終え、先輩死神たちへのご挨拶ということで執務室にやって来た。
すると、皆がキリトを見て、何か珍獣でも見るような目つきで、こちらを見るのである。


「・・・本日、十三番隊に配属されました、篠原キリトと申します。若輩な上、未熟者ではございますが、ご指導、ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。」
向けられる視線に内心で震えながらも、何とか挨拶をする。
それから一礼して顔を上げれば、それまで向けられていた視線は逸らされていたが、皆が口元を抑えて小さく震えている。


・・・僕、何か笑われるようなことしたっけ?
それとも見た目?
死覇装の着方は間違っていないはずだし、寝癖がないかどうかも部屋を出る際には鏡で確認した。
僕の髪と瞳が珍しいわけでもないし・・・。
それともそれ以外にどこかおかしいところがあるのだろうか・・・?


「「「「「・・・ふ、はは、あはは!!!!」」」」」
キリトが首を傾げていると誰かが噴き出して、それに続いてどっと笑い声が起こる。
その状況にさらに首を傾げれば、ある二人が近づいてきた。
「あはは。よろしく、新人君。あたしは、三席の虎徹清音よ。」
「同じく三席の小椿仙太郎だ。よろしくな、篠原。」
「はい。よろしくお願いします。」
自己紹介をされたので、とりあえず一礼を返す。


「笑ってごめんね。ちょっと、可笑しくって。」
「おかしい、ですか・・・?」
「あ、キリト君がおかしいとかじゃないのよ?ただ・・・。」
「ぶっ、くくく・・・。」
再び笑い出した仙太郎に、キリトは目をぱちくりとさせる。


「こら、小椿。笑いすぎ。・・・ただ、青藍君と咲夜さんが言っていた通りの子だったから。」
・・・なんとなく嫌な予感がするのは、気のせいだろうか。
「青藍と、咲夜さん・・・?」


「えぇ。ふふ。おかしいのよ、あの二人。昨日、二人そろって執務室にやって来たと思ったら、キリト君について語りだして。」
「そうそう。才能は保障するけど小動物みたいな奴が来るからよろしくってさ。」
「青藍君ったら、ほっぺたが柔らかくて目がくりくりで癒し系で可愛いからって苛めないでくださいね、だって。」
笑いながら言われて、キリトは内心で拗ねる。
青藍たら、余計なことを・・・。


「それで、皆楽しみに待ってたんだけど、本人が来てみたら、二人の話の通りだから、可笑しくなっちゃったわけ。」
言われてキリトは納得する。
隊士たちの視線は青藍と咲夜さんのせいだったのだ。
二人が僕をどう説明したのかは、あえて聞かないことにしよう。
・・・きっと、聞いたら布団の中に潜り込みたくなるだろうから。


「そうでしたか。ずっと見つめられていたので、僕、何かしたのかと・・・。」
「いやねぇ。そんなことないわよ。ようこそ、十三番隊へ。首席卒業ということだし、期待しているわ。」
「はい。頑張ります。」
笑みを向けられたので、キリトもほっとしたように微笑む。


「うちが主席を獲得するのは、何年振りだろうなぁ。」
「隊長ったら、いつもくじ引きで当たらないのよねぇ。」
「今回籤を引いたのは、咲夜さんだぞ。あの人は強運の持ち主だよな。」
「本当よね。宣言通りキリト君を獲得してきて驚いたわ。」


「ふふん。白哉が相手でなければ、私の強運は誰にも負けないのだ!」
得意げな声と共に突然窓から姿を見せた咲夜に、キリトたち新人はびくりとその身を震わせる。
それに対して十三番隊の隊士たちはいつものことだという表情だ。


「咲夜さん。六番隊の方はもういいんですか?」
「あぁ。青藍が恋次に勝ったからな。アレを見せられたら、文句は言えないだろう。」
鼻歌でも歌いそうなくらいご機嫌な咲夜に、十三番隊士たちは何となく何があったのか理解して苦笑する。
半分は青藍の実力の高さに驚きを通り越して呆れ、半分はそれに利用された恋次への同情である。


「という訳で、キリト。この私の強運によって君を引き寄せたのだ。君への指導は私が直々にしてやろう。実戦はともかく、書類整理の腕は一か月で席官並みにしてやるからな。浮竹が倒れると私の仕事が増えるのだ。」
もしかして自分のため・・・?
少々面倒そうに言った咲夜にそんな疑問が浮き上がるが、青藍のお母さんだから仕方がない、とキリトは内心で呟く。


どんな理由であれ、咲夜さんに教わるということは、力をつけるチャンスなのだ。
それに、青藍には負けていられない。
首席卒業ではあるが、青藍の実力には到底及ばない。
それ故、断るという選択肢はキリトの中には無かった。
「はい!よろしくお願いいたします!」
そう言って一礼すれば、咲夜は満足げに笑う。


「なんだ、騒がしいな・・・って、漣か。それなら仕方ないな。」
背後から浮竹が現れて、キリトは飛び上がる。
「仕方ないとは何だ、仕方ないとは!?」
「五月蝿いぞ。お前がいるといつも騒がしいだろう。」


「何!?そんなことはないぞ!?」
「まだ自覚がないのか。・・・はぁ。困った奴だ。」
呆れた声とため息が聞こえてきて、恐る恐る振り向けば、にこりと笑みを向けられる。
「咲夜姉さま・・・。」
さらにその後ろから苦笑したルキアの姿が現れた。


「浮竹隊長。朽木副隊長。」
キリトがそう呟けば、執務室のあちらこちらから彼らに声が掛けられる。
二人はその声に応えて、それからキリトたちに視線を戻した。
「漣が騒がせてすまんな。お前は青藍と関わっているからまぁ解るだろうが、他の奴らはどうすればいいか解らなかっただろう。」


苦笑しながら言われるが、新人たちは、はい、とも、いいえ、とも答えることが出来ない。
応えに窮して、縋るようにキリトを見つめた。
その視線を感じて、キリトは苦笑する。
「いえ。これが、何時ものことなのですよね。青藍から聞いています。」


「はは。そうか。まぁ、そう堅苦しい隊風でもない。何かあったら、相談するといい。俺も朽木も力になろう。なぁ、朽木?」
「はい。・・・皆、よろしく頼む。ちなみに、咲夜姉さまを含め、隊長格たちが抜刀するようなことでもあれば、青藍を呼びに行くといい。大抵の喧嘩は青藍に任せておけば治まるからな。」


ルキアの言葉に隊士たちはうんうんと頷く。
新人たちも、それは一体どういう状況なのだろう、と疑問に思いながらもとりあえず頷いた。
その状況の恐ろしさを知るのはそう遠くない未来なのだが。


「よし。それじゃあ、皆仕事に戻れよ。俺は少し一番隊に行ってくる。」
「はい。隊士たちの方はお任せを。」
「よろしくな。」
「また一番隊か。物好きだなぁ、浮竹は。」
からかうように言った咲夜に、浮竹はじとりとした視線を向ける。


「他人事のように言うな。主にお前のせいだろう。」
「私は何も悪いことはしていない。」
「すぐにその辺をふらふらする奴が何を言っているんだ。・・・今日はお前も来い。先生がお呼びだ。」
浮竹はそう言って問答無用で咲夜の襟首をつかむ。


「は、離せ!どうせ山じいのお説教だろう!あの長いお説教は勘弁してほしい!!」
「お前がそうやって毎回逃げるからだろう。良いから来い。・・・白哉を巻き込んでもいいんだぞ、俺は。」
「な!?」
浮竹の言葉に、咲夜は動きを止める。


「この間、二人で隊舎の一部を吹き飛ばしてくれたからな。」
「な、それは、弁償しただろう!」
「弁償すれば許されると思っているのが間違いだ。たまには先生のお説教を真摯に受け止めろ。」
「酷いぞ!私の給料はあれの修理代に当てられて、この一か月間ただ働き状態だというのに!」


「・・・俺は別に、お前の代わりに白哉を連れて行ってもいいが?」
「・・・・・・いや、それは、やめてくれ・・・。」
「そうか。それじゃあ、行くぞ。後は頼んだぞ、朽木。」
「はい。浮竹隊長。」


大人しくなった咲夜を引き摺って行く浮竹の背中に、皆が苦笑する。
キリトもまた苦笑して、話しで聞いた通りで面白いのはあの二人の方だ、と内心で呟いたのだった。



2016.08.08
キリトの入隊初日。
この後キリトは十三番隊の皆に可愛がられながら強くなっていくのでしょう。
咲夜さんがキリトの新人指導を買って出たために、咲夜さんとの時間が減って白哉さんが不満げな顔をしていそうです。
八つ当たりで青藍の仕事が増やされていたりするのでしょう。


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