色彩
■ 33.清家の祈り

『・・・あぁ。』
そんなうめき声ともため息とも言えない声を上げながら、青藍はしゃがみこんで顔を隠す。
「青藍様?」
考え込んでいた青藍が突然座り込んだために、清家は首を傾げる。
『・・・清家。』
「はい?」
呼ばれて清家は返事をする。


『それは、少し、考える時間を、くれないだろうか。ちょっと、今は、色々と整理したいから、駄目だ・・・。』
顔を隠したまま話しているため、声がくぐもっているが、清家はその言葉を聞いて目を丸くする。


青藍様が婚姻に関して前向きな言葉を発するとは・・・。
幼い頃、誘拐され、女性に性的な行為を強制させられそうになってから、この方は女性、特に年上の女性に触れることが出来なくなった。
一時期は、咲夜様とルキア様以外の女性を受け付けなかった。
その後お生まれになった茶羅様は平気だったけれども。


今では顔なじみの女性死神の皆様に抱き着かれたり頭を撫でられたりすることも平気になっているが、自分から触れることは出来ず、色を含んだ女性には触れられることさえ拒む。
自分に好意が向けられているのならば尚更青藍様はそれを拒絶する。


どれ程見合い写真を見せても、青藍様は首を横に振るばかり。
その青藍様が、振りとはいえ、婚約を嫌がらない・・・?
それに、帰ってきたとき、深冬様を抱えていた・・・。
それはつまり・・・。
清家はそんなことを考えながら、青藍をまじまじと見つめる。


しゃがみこんだ青藍の耳が微かに赤くなっているのを見て取って、清家は彼が何故顔を隠しているのか、理解した。
「では、お待ちいたしましょう。大切なことにございます。ゆっくりと考えられるのがよろしいでしょう。」
清家はそう言って微笑む。


『うん・・・。』
白哉や青藍たちは清家にとって子や孫のように可愛いのだ。
長年朽木家に仕え、当主の苦悩を知る清家だからこそ、立派に朽木家を導いて欲しいと思う一方で、彼らに幸せになってほしいと思う。
・・・少なくとも、白哉様のような苦労はしていただきたくない。
掟のために、必死で心を殺す姿など、見たくはない。
あれ程痛々しい姿は二度と見たくはない。


もう、あのようなお姿を見るのは、この老骨には辛いものがある。
胸が千切れそうになる。
自分の役目を忘れて、逃げてもいいと、言ってしまいそうになる。
清家は内心でそう呟く。


その上、青藍様は霊妃様まで背負っておられる。
私などには計り知れないほど、重いものを。
全てを背負う、覚悟を決めて。
青藍様は、弱音を吐かれない。


昔から、どんなに稽古で咲夜様にボロボロにされようと、白哉様の朽木家当主になるための教育が厳しかろうと、ほとんど弱音など洩らさなかった。
それが清家には心配なのだ。
そのように大きなものを一人で抱えては、いつか、潰れてしまうのではないかと。


僕は父上のようになる。
しかし、そう言って凛と前を見据える幼い青藍を思い出して、清家は苦笑する。
あの幼子が、こんなに大きくなったのか・・・。
ここまで逞しくなられたのだから、きっと大丈夫だ。
今の青藍様ならば、きっと。


だがしかし、それでも、この方は孤独だ。
その孤独に、時々青藍が呑まれそうになることも清家はよく解っていた。
今はまだ、白哉様や咲夜様が居られる故、その孤独に呑まれることはないだろう。
しかし、この先、確実に、あのお二人でさえ、青藍様より先にこの世界から消えていく。
当然のことながら、この私も含めて。


その孤独は歴代の当主全てが背負ったもので、だが、一人で背負うには大きすぎる。
どうか、この方が、一人になりませぬように。
大切なものを見つけることが出来ますように。
そして、出来ることならば、青藍様の大切なものが、青藍様を大切に思ってくださいますように。
清家はそんなことを小さく祈ったのだった。

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