色彩
■ 32.自覚

『ねぇ、清家。どうするのが、一番深冬を守れるだろうか。僕は、深冬のそばに居ない方がいいのかな・・・。いつも、僕のせいで、深冬は・・・。』
清家に話しかけつつも、青藍は独り言のように言う。
珍しく弱音を吐いた次期当主に、清家は小さく微笑む。


この方が、他人のためにここまで悩んでいるとは。
本来ならば、この方が自分の手で守る必要がないことに、まだ気付かれておられない。
それほど、深冬様が大切だということか。


「それを決めるのは、深冬様でございましょう。誰かを守るために、その誰かから離れる、というのは、私に言わせれば、ただ逃げているだけにございます。少なくとも、今の深冬様は青藍様を必要としておられるのでしょう?今のまま離れる方が酷なのではありませぬか?」


珍しく柔らかい声で言われて、青藍は思わず清家の顔を見た。
皺だらけの顔に、白くなった髪。
長年朽木家に仕える、信頼できる人物。
いつも厳しいが、青藍はその厳しさの奥にある優しさを知っている。


もちろん、橙晴や茶羅だって、ちゃんとそれを解っている。
きっと、銀嶺お爺様も、蒼純お爺様も、父上も。
皆がそんな清家に助けられてきたのだ。
『・・・うん。そうだね。ありがとう、清家。』
青藍は眉を下げて情けなく笑う。


「いえ。出過ぎたことを申し上げました。」
清家はそう言って軽く頭を下げる。
『いいんだ。・・・でも、どうにか深冬を守る方法を考えないとね。』
「そう言うことでしたら、効果覿面な方法が一つございますが。」
『何?』


「深冬様を、青藍様の婚約者にされればよろしいかと。」
『・・・・・・え?』
清家の言葉に、青藍は固まる。
清家はそれを面白そうに見た。
『・・・ごめん、清家。もう一度言ってもらえるかな。』
青藍は一度軽く頭を振ってから聞きなおす。


「ですから、深冬様を青藍様の婚約者になさればよろしいのです。」
清家はそう言って微笑む。
『それ、は・・・色々と、問題な気が・・・。』
青藍は狼狽えたように言う。


「そうでございましょうか?養子とはいえ、深冬様のお父上は霊王宮に仕えるお方。お母上は流魂街の方ではありますが、お育ちは上流貴族の加賀美家にございます。さらには、青藍様も深冬様もお互い大切に思い合っているご様子。白哉様はもちろん、咲夜様や朽木家の家臣団も反対はせぬでしょう。何か問題がございましょうか?」
清家は楽しげに言う。


『だって、深冬は、まだ、小さいんだよ?年だってそれなりに離れているし・・・。』
青藍は困ったように、おろおろという。
「すぐにご結婚なさる必要はございません。結婚は深冬様が大きくおなりになられてからでよろしゅうございましょう。年齢など、大きくなられてしまえば関係ありません。青藍様と深冬様の年の差など、白哉様と咲夜様との年の差に比べれば、些細なものでございます。」


はっきりと、微笑みながらいう清家に青藍は狼狽える。
確かに清家の言う通りではある。
でも・・・深冬が僕の婚約者になる・・・というのは?
そうなれば、簡単に深冬に手を出そうなどという者は出てこないだろう。
深冬に手を出せば、朽木家が敵に回る、ということなのだから。
でもそれは、僕が良くても、深冬が嫌なのではないだろうか・・・?


そこまで考えて、青藍はあることに気が付く。
・・・僕、それを嫌だとは思っていないんだ。
今までどんなに美しい姫から見合い話が来ても、どんなに朽木家にとって利益になるお見合い話でも、嫌だったのに。
今までそのことに関して、一度だってそれでもいいや、と投げやりになることすら、なかったのに。


トラウマがあるという理由もあるけれど、父上と母上のような夫婦が僕の理想だから。
いや、トラウマがあるからこそ、父上たちが理想で、そのことに関してだけは妥協するつもりはなかった。
誰に何を言われようとも。
でも、それって、それじゃあ、僕は・・・。


そこまで考えたとき、ある言葉が思い出される。
本当に欲しいものが見つかった時には、迷わず手を伸ばすのだぞ。
好いた者が出来たのならば、手を伸ばしていいのだぞ。
いつか、そんな言葉を両親が言っていた・・・。

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