色彩
■ 31.お見合いの理由

深冬の部屋に着くと、青藍は漸く深冬を降ろした。
しかし、深冬は青藍から離れようとはしない。
『深冬?・・・もう大丈夫だよ。ここは朽木の邸だ。君はもう安全なところに居るんだよ。』
青藍がそう言っても、深冬は首を横に振るだけである。


『深冬、顔を見せて。大丈夫だよ、僕はちゃんと君のそばに居るよ。』
青藍は宥めるように彼女の背中を叩きながら、優しく言う。
それを聞いて、深冬は青藍の首に回していた腕を緩める。
俯いたままの深冬の頬に手を当てて、青藍は顔を上げさせた。
その顔には怯えの表情が浮かんでいた。
そんな深冬の額に、青藍は自分の額をくっつける。


『深冬。大丈夫。君の目の前に居るのは、僕で、君が今居るのは朽木家だ。もう、安心していいんだ。君を傷つけたり、狙ったりする者はここには居ない。だから、力を抜いても大丈夫だ。』
言い聞かせるように、青藍が言う。


『深冬、怖かったね。怖い思いをさせてごめんね。』
「青藍・・・。」
深冬はそんな青藍に、泣きそうな声で言った。
『・・・もう二度と、こんな思いはさせないから。僕が約束する。僕のこと、信じてくれる?』
青藍の問いに、深冬は小さく頷く。
それを見て、青藍は微笑んだ。


そうしていると、佐奈が二人の着替えを持って現れる。
「青藍様。青藍様は別室でお着替えください。」
『解ったよ。』
青藍はそういうと、深冬の頭を一撫でして立ち上がる。
そんな青藍の袴を深冬は小さく引っ張った。


『深冬?・・・大丈夫だよ。佐奈はいつも僕のそばに居るでしょう?だから安心していいよ。着替えが終わったら、僕がそばに居てあげるから。ね?』
青藍が諭すように言うと深冬はゆっくりと彼の袴から手を放す。
『うん。いい子だ。少し待っていてね。・・・佐奈、着替えを手伝ってあげて。』


「お任せ下さい。さぁ、深冬様。お着替えいたしましょうね。」
深冬の様子を見てか、佐奈は明るくいう。
それを見て、青藍は別室に行き、着替えを始めた。
そんな青藍の元に、清家が静かに現れる。


『清家?』
「お着替え中、失礼いたします。・・・事情はお聞きいたしました。あの者の身柄は無事刑軍に引き渡したとのことでございます。」
『そう。』
「深冬様のご様子は?」


『まだ落ち着かないみたいだね。一体、あの男に何をされたのだか。佐奈のことまで怖がっているようだから、暫くあまり人を近づけないでくれ。僕は大丈夫なようだから、何とかしてみるよ。深冬は明日、非番ではないからね。どうしても駄目なようなら休ませるけれど。』


「畏まりました。加賀美家へのご連絡は?」
『加賀美君と一緒に居たから、加賀美君が話してくれるだろうけど、一応加賀美家にも連絡をしておいて。あと、加賀美のご当主に、家のために婚約するのは当たり前のことだから仕方がないけれど、深冬の立場を考えるなら身元が確かで、表裏のない者をしっかりと選んでくれとも言っておいてね。』


「はい。安曇様には?」
『安曇様には、次会った時にでも、僕から説明しておくよ。・・・それにしても、何故今、深冬の見合いなのだろう?』
着替え終えた青藍は考えるように言う。


「少々お聞きしたところによりますと、加賀美のご当主様の奥方が、強く希望なさったという話にございます。」
『奥方?確か、八重殿?』
青藍は怪訝な表情になる。


「えぇ。なんでも、深冬様が朽木家に居るのが気に入らないとか。」
『・・・そう。奥方には深冬の事情を話していないんだ。加賀美のご当主と、加賀美君が、話さない方がいいと判断したから。』
「左様でしたか。」


『それに、茶羅に加賀美君との見合い話もあるようだね。加賀美君に確認したら、奥方が勝手に写真を送ったらしいと。』
青藍は確認するように清家をチラリとみる。
「そのようでございます。ですので、深冬様が青藍様と親しくしておられるのがご不満なのでしょう。」


『・・・知らないというのは幸せだよね。自分が何をしたのか理解できないから、自分の罪を知ることがない。まぁそれは、ある意味で不幸とも言うのだけれど。』
青藍はそう言って大きなため息を吐く。

[ prev / next ]
top
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -