色彩
■ 30.目覚めた姫

「・・・ん。」
治療が終わる頃、深冬は小さく身じろいだ。
『深冬?気が付いた?』
青藍が声を掛けると、深冬はゆっくりと目を開ける。


「・・・せい、らん?」
『うん。何処か痛いところはない?』
「・・・あぁ。私は、確か・・・。」
深冬はそう言って何かを思い出そうとする。


「・・・見合いの席に居たはずだ。何処だ此処は。」
『そうなのだけれどね・・・。そのお見合い相手に攫われていたんだよ。』
青藍は苦笑する。
「あぁ、確か、突然意識がなくなって・・・。」


『うん。それから、一応聞いておくけれど、君はお見合いを断ったんだよね?』
「・・・当たり前だ。何故あのような男の妻にならねばならんのだ。」
深冬は不愉快そうにいう。
『あはは。何かされたのかな?』
そう笑う青藍の瞳は全く笑っていないのだが。


「やたらと私に触れてきた。気持ち悪かった。」
それを思い出したのか、深冬の瞳に怯えが映る。
『・・・へぇ。それは、ちょっとまだ、お仕置きが足りないかな。』
気持ち悪そうに言った深冬を見て、青藍は深冬を置いてゆらり、と立ち上がろうとする。


「・・・行くな、青藍。」
そんな青藍の裾を深冬は小さく掴んだ。
『深冬?』
青藍は首を傾げながらも、再び深冬を抱き上げる。
それに安心したように、深冬は青藍の袂を掴んで、額を青藍の胸に預けた。


『・・・怖かった?』
そんな深冬の頭を撫でながら、青藍は優しく問う。
「・・・うん。」
深冬はそれに小さく頷いた。


『そっか。もう大丈夫だよ。君はあの男の妻になる必要もないし、もう二度とあの男に会うこともない。僕と加賀美君で君を助けた。そして、君が今いるのは僕の腕の中だ。いいね?』
優しい声に、深冬はまた小さく頷いて、青藍の首に手を回す。
青藍はそれを受け止めて、深冬を抱きしめたのだった。


十数分後。
隊士たちが到着し、次々と連行されていく。
青藍は地面に座り込んで、深冬を膝の上に抱えながら、その様子を眺めていた。
深冬は未だに青藍に抱き着いたままである。
隊士たちに少し遅れて、白哉が姿を現した。


『あ、父上。』
青藍の声が聞こえたのか、白哉は青藍の元にやってくる。
「青藍。・・・どうかしたのか?」
青藍に抱き着いている深冬を見て、白哉は首を傾げた。


『あはは・・・。ちょっと、流石に怖かったみたいで。』
「・・・そうか。では、今日は深冬を連れて邸に帰れ。」
『え?』
白哉の言葉に青藍は目を丸くする。


「それでは仕事にならぬだろうからな。落ち着くまで一緒に居てやるといい。そなたが私の机の上にのせた書類も引き受けよう。」
白哉は苦笑しつつ言う。
『あらら。ばれていましたか。』
「橙晴が文句を言いながら処理していたぞ。」


『ふふ。それはすみません。まぁでも、お蔭で深冬が助かったので、お許しを。』
「構わぬ。早く邸に帰れ。ここも私が引き受ける。」
『よろしくお願いします。・・・深冬、邸に帰ろうか。瞬歩で帰ってもいい?』
青藍に言われて、深冬は小さく頷く。
それを確認して深冬を抱きしめたまま立ち上がると、青藍は白哉に軽く頭を下げて姿を消したのだった。


邸に着くと、深冬を抱えた青藍が突然帰ってきたため、使用人たちは慌てたように出迎えた。
「青藍様、これは一体・・・?」
出迎えた清家が深冬を見ながら目を丸くする。
『うん。ちょっとね。すぐに情報網から報告があるだろうから後で聞いて。急いで帰ってきたから僕の方が速かったんだね。騒がせてごめん。』
青藍は苦笑しつつ言う。


「それは、構いませぬが・・・。」
『佐奈は居るかい?』
「ここに居ります。」
『深冬と僕の着替えをお願いできるかな。とりあえず僕が深冬を部屋に運んでおくから。』
「かしこまりました。」
『うん。よろしく。』
青藍はそう言って頷くと、深冬を抱えたまま、廊下を歩き出す。

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