■ 8.僕の役目
「・・・すまない。取り乱した。」
暫くして笑いが収まったのか、無表情に戻った安曇が言う。
『いいですよ、別に。・・・それで、深冬。この安曇様は君の父親ということだけれど。覚えていたりはするの?』
「いや、まったく。今まで本当にそんな親が居るのか、疑っていたくらいだ。」
深冬は即答する。
それに安曇は苦笑した。
『あ、そうなんだ。何か、懐かしい感じとか、ないの?』
「・・・特には。だが、父親だ、ということは解る。」
深冬は確信を持っていう。
『何で?』
「なんとなく、だ。それに、これだけ似ていて血の繋がりを疑うのもおかしいだろう。わざわざそんな嘘を作り出すメリットもない。・・・それより、聞きたいことがある。」
『なんだい?』
「何故青藍は、赤い目の一族を知っているのだ?」
『あはは・・・。まぁ、それは話すと長くなるのだけれど。』
「聞くから話せ。」
『えぇ・・・。今じゃなきゃダメ?』
「当たり前だ。今でなければ話してくれないのだろう?青藍は私のことを知っているのに、私は青藍のことを知らないというのは不公平だ。」
深冬が拗ねたように言う。
『・・・父上、話しても大丈夫でしょうか?』
「大丈夫だとは思うが・・・。十五夜はどう思う?」
「僕?まぁ、一応本人に関わることだし、いいんじゃないかな。僕らが話さなくても、この子に頼まれたら安曇が話してしまうと思うよ。」
「な、何をいう。そんなことは・・・。」
「ないとは言い切れないのだろう?全く、親ばかというのは何処にでも居るものだね。それなのに一度も会いに行っていないだなんて、君こそ阿呆だ。」
「・・・五月蝿い。」
『・・・と、言うことなので、掻い摘んで説明するね。全部説明すると一日かかる勢いだから。』
「解った。」
『漣家にはね、霊妃様という方がいらっしゃってね、その方の瞳は君と同じ紅色なんだ。それで、僕は君を見たときに同じ瞳だなぁ、と思って、その霊妃様にお尋ねしたんだ。』
「霊妃様とは何だ?」
深冬は首を傾げる。
『まぁ、それは後で詳しく説明するよ。・・・そうしたら、尸魂界を作った人々は赤い瞳をしているというじゃない?それで、もしかすると、その人々は霊妃様の一族で、深冬はその一族に何かつながりがあるのかもしれないと考えた。』
「だから勝手に私のことを調べたのか。なぜそこまで調べる必要があるのだ?私をどうするつもりだった?」
『君に黙って調べたのは謝るよ。加賀美君も君も口を割ってくれなさそうだったから。でも、僕はそうする必要があると判断した。それが、僕の役目でもあるから。』
「役目?」
『霊妃様というのは霊王様の奥方でね、霊王様に匹敵するお力を持っている。その力を今まで漣家が隠してきた。そして、今その力をもっとも引き出すことが出来るのは、僕の母上なんだ。その上、僕は霊妃様の愛し子でもあってね。』
「愛し子?」
『それはまぁ、霊妃様のお気に入り、のような。でね、そんな大きな力が誰かに利用されたりすると大変でしょ?僕はその力を利用されないようにするのが仕事。これは朽木家の、母上と関わる者としての仕事なんだ。だから、君が霊妃様と関わりがあるのなら、僕は君を守らなければならない。そして、母上や霊妃様を利用することにつながる可能性があるならば、すべてを把握しておかなければならない。だから、僕は君を調べた。』
「・・・そうか。とりあえず解った。その霊妃様を隠した理由は加賀美家が私の出自を隠した理由と同じということだな?」
深冬はそう言って青藍を見上げる。
『そうだよ。加賀美家も、君を利用させないために、君をただの拾い子として養子に迎えたのだろう。霊王宮に住まう者の力は、こちらから見れば、とても大きな力だからね。漣家の霊妃様なんて、世界がひっくり返るくらい大きな力を持っている。その上、霊妃様と君の関係が表ざたになれば、君の存在が大きな争いを起こしかねない。』
「そしてそれは青藍が防がなければならない?」
『まぁ、そうだね。僕が、というよりは、朽木家と漣家が防がなければならない。それが原因で、母上や霊妃様の力が暴走したりすると、世界がなくなる勢いだから。』
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