■ 6.出生の秘密
「・・・我ら一族は、一族内でしか婚姻することが出来ない。故に、万が一にも他の一族と交わって子が生まれたとしても、ある例外を除いて、その子が我が一族に認められることはない。」
安曇は静かに言い放つ。
「では、深冬は・・・。」
白哉が何かに気付いたように言う。
「そうだ。あれの母親は我らの一族の者ではない。・・・流魂街の女だ。」
安曇は何かを抑えるように言った。
その言葉に白哉は目を丸くする。
「仕事で流魂街に降りたときに出会った。粗末な身なりではあったが、美しい女だった。名を美央といった。」
目を伏せて、安曇は語り始める。
笑顔のよく似合う女だったこと。
紅色の瞳を恐れなかったこと。
銀色の髪がお気に入りだったこと。
一度出会ってからは、気になって流魂街に降りる度に彼女の元へ通ったこと。
次第に惹かれあって、交わったこと。
掟など気にならないくらいに、愛したこと。
彼女も自分を愛してくれていたこと。
彼女のそばに居る時は心休まったこと。
子が出来たことが解って、二人で喜んだこと。
ポツリポツリと、安曇は語った。
表情は乏しいが、彼女を愛していたことは本当のようだった。
少なくとも白哉には、それが分かった。
身分など気にならないほどの愛を知っているために。
「そして、深冬が生まれた。・・・だが、暫くして美央は虚に襲われ、まだ歩くことすらままならない深冬を残して死んでしまった。私が霊王宮に居る間に、襲われたのだ。私はそれを知ってすぐに流魂街に降りたが、そこには母を亡くして衰弱した深冬しか居なかった。」
悔しげに安曇は言う。
「美央の死を悲しんでいる暇などなかった。深冬を霊王宮に連れて帰ることなどできぬ。連れて帰れば、一族から放り出されて、結局流魂街へと逆戻りだ。かといって、私が流魂街に留まることも出来なかった。だから私は何とかして深冬を育ててもらえるところを探したのだ。だが、深冬は驚くほどに私に似て生まれている。気味悪がって、誰も引き受けてくれなかった。そんな時に、今の加賀美の当主に出会ったのだ。」
言って安曇は一息つく。
「あれは、深冬を引き受けると言った。自分は上流貴族の生まれだから、一人を養うぐらい大したことはない、といって。」
「それで深冬を加賀美家に?」
白哉の言葉に安曇は頷いた。
「そうだ。私には時間がなかった。そう長く霊王宮を空けることなど出来ない。あの時私はすぐにでも霊王宮に帰らねばならなかった。祭儀を司る我らは、霊王宮の中でも特殊故、代わりは居ないのだ。だから、いつか必ず、深冬を迎えに来るからと言い残して、深冬を預けた・・・。」
「・・・では、深冬を迎えに来たということか?」
白哉の問いに、安曇は首を横に振る。
「私は、一族の頂点に上り詰めれば、掟を変えて深冬を一族に迎えることが出来るのではないかと、そう思っていた。だが、長となった今でも、掟を変えることはできていない。今日ここへ来たのは、深冬の正体に感付いているものが居ると聞いたからだ。それが、どんな者なのか、見極めるために来た。」
安曇はそう言って白哉を真っ直ぐに見つめる。
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