色彩
■ 2.悪く言うな

まるで、八重様に言われているようだ・・・。
深冬はそう感じて加賀美の邸に居る間のことを思い出す。
加賀美家当主の妻である八重は、突然自分の夫が拾ってきた素性の知れない娘を心の底から嫌っているのだ。


いつも、邸に居る間は、深冬はまるで召使のように扱われる。
当主や豪紀がやめろというとさらに酷くなるので、彼らは何も言わなくなった。
お蔭で深冬はいつも夜遅くまで眠ることが出来ず、寝不足なのである。


咲夜様には、夜眠れていないことを気付かれてしまった・・・。
死神としての仕事に加え、咲夜との稽古がある深冬は、それだけでも体力がもたないのだ。
そのうえ、夜眠れないのでは無理が出る。


青藍には隠してもらっているが、深冬はすでに何度か熱を出して寝込んでいた。
咲夜が眠れない理由を聞いても深冬は答えないので、最近は咲夜と共にお昼寝の時間があるのだ。
それを快く受け入れてくれた浮竹やルキアにも、深冬はどうしたらいいのか、解らない。
それでなくても太陽の光に弱いために迷惑をかけているのに。
青藍と、青藍の周りに居る者たちの温かさが、深冬には初めてのことだった。


「気味の悪い子。青藍様もこんな子を傍に置くなんて、趣味が悪いわ。」
そんな声が聞こえてきて、深冬は思わず相手を見つめる。
「な、何よ。」
見つめられた相手は怯えたように深冬を見た。


「・・・青藍を、悪く言うな。」
小さく、深冬は呟く。
何故だかわからないが、青藍のことを悪く言われるのは嫌だったのだ。
その言葉が聞こえたのか、周りの姫たちは気色ばんだ。


「青藍様を呼び捨てだなんて生意気だわ。」
「青藍様、とお呼びなさいよ。」
「・・・青藍は、お前たちなんかとは違う。何も知らないくせに、青藍を悪く言うな。」
深冬は真っ直ぐに姫たちを見つめて言い放つ。


「何て口の利きかたかしら。」
「品の無い・・・。」
「無礼にもほどがあるわ。」
姫たちは口々にそんなことをいう。


「無礼はどちらだ。青藍を悪く言うのは無礼ではないのか。」
深冬はふつふつと怒りが込み上げてくるのを感じる。
「貴方だって青藍様を呼び捨てにしているじゃない。」
「青藍がそれでいいと言った。」


「青藍様に構われているからっていい気にならないことよ。いくら加賀美家の姫でも許されないわ。あの方はお優しいのよ。豪紀様と友人だから仕方なく貴方の相手をしてくれているの。そうでなければ、青藍様が貴方みたいなのを相手にするわけないじゃない!」


「・・・青藍に相手にされていないお前たちがそれを言うのか?」
深冬のそんな言葉に、姫の一人が手を振り上げる。
それでも深冬は、目を逸らさなかった。


バチン!
青藍が女性陣の席にたどり着くと、そんな音と共に深冬が手を上げられたところだった。
それを見た青藍から、いつもの柔らかな雰囲気が消え去る。
『・・・君たち、何をやっているの?』
そう言った青藍の声は酷く冷たい。
その声を聴いて、姫たちは青藍に気が付く。
そして、その顔を青褪めさせた。
いつも柔らかな雰囲気を放っている青藍が、無表情で自分たちの方を見ていたからだ。


・・・全く、兄様を怒らせるなんて、あの子たち大変ね。
そんな青藍の隣で、茶羅は他人事のように考える。
『ねぇ、何をしているのかと、聞いているのだけれど。』
誰も答えないために、青藍は再び問う。
それでも、青藍の声と雰囲気にその問いに答えられるものなど居なかった。


『・・・まぁ、それは別にいい。ここへ来るまでに大方茶羅から聞いたから、大体想像はつくよ。君たちが欲しいのは朽木家次期当主の、ひいては朽木家当主の妻という地位だ。だから、その朽木家次期当主の周りに居る、深冬が邪魔なのだろう?』


「そんな、ことは・・・。」
『それで言い合いになった。深冬は少々口が悪いからね。それが君の気に障ったのだろう。それでつい、手を上げてしまった。』


「それは・・・この子が、青藍様を呼び捨てに・・・。」
「そうですわ、青藍様。それは青藍様への侮辱にございましょう?」
『私がそれを許した。それ以上の理由が必要かい?』
青藍に言われて、彼女は押し黙る。

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