色彩
■ 1.奉納の儀

数か月後。
青藍は周防家が楽の音を霊王に奉じる儀式、通称「奉納の儀」に出席するため、白哉と茶羅の二人と共に周防の邸に来ていた。
上流貴族はほとんどが参加するため、もちろん、加賀美家からも当主、豪紀、深冬が出席しているようである。


周防の笛の音を聞き、それから酒宴へとなだれ込む。
今日は男性陣と女性陣で席が分けられているために、青藍は平和に過ごしていた。
といっても、朽木家に取り入ろうと寄ってくる貴族の者たちは絶えないのだが。
未だにどこに顔を出してもお見合い話ばかりなのだ。


全く、諦めが悪いなぁ。
何度もお見合い写真が送られてきたけど、なんの返事もないというのはそういうことだと感じ取ってくれればいいのに。
内心でそう呟きつつも、その辺は適当に挨拶だけして、あとは白哉に投げていたため、青藍は笑みを崩さずに適当に話を聞いているだけで良かった。


もちろん、白哉がそれを良しとしなかったので途中からは会話に参加させられたのだが。
それはそれとして、青藍はいつもよりは平和に酒宴を楽しんでいたのである。
そんな時、男性陣の席に茶羅が駆け込んできたのだった。


「青藍兄様!」
『茶羅?』
突然現れた茶羅に、青藍は目を丸くする。
「茶羅。」
そんな茶羅に白哉が窘めるように名を呼ぶ。


「父上、申し訳ありませんが、青藍兄様をお借りしますね。」
それを気にすることなく、茶羅はそう言うと、青藍の腕を取って引っ張り始める。
『ちょっと、茶羅!?何?今兄様はお話し中なのだけれど。』
「いいからこちらへ。・・・深冬が大変なの。」
茶羅は声を潜めて言う。


『深冬が?』
「えぇ。姫たちに深冬が絡まれているのよ。もう私では止められない。兄様のせいよ。」
『・・・わかったよ。申し訳ありませんが、私は少し席を外します。』
青藍はそう言って白哉と目の前にいるどこぞの貴族の当主に一礼して、茶羅に引かれるままに女性陣の席へと向かう。


一方、深冬は内心うんざりしていた。
目の前に居る姫たちは、口を開けば青藍、青藍、青藍。
「加賀美家の次期当主様は青藍様と仲がよろしいのでしょう?」
「青藍様ってどんな方がお好みなのかしら?」
「青藍様は何がお好き?」


始めはそんな青藍に関することを聞かれていただけだった。
しかし、深冬には青藍の好みなどよく解らない。
解らないから解らないと答えているだけなのに、どうやら目の前の彼女たちにはそれが気に入らないようだった。
次第に、彼女たちの言葉に棘が感じられるようになる。


「そうやって青藍様のことを隠して、青藍様の奥方になることでも企んでいるのかしら?」
「少し見た目が人と違うからって、それを利用して青藍様に近付いたのね。」
「貴方みたいな小さな子を青藍様が相手にするなんておかしいもの。」


そんなことを言われても・・・。
深冬は内心思う。
いつもいつも私に構ってくるのは青藍の方だ。
私はそれが不思議だ。
嫌ではない。
むしろ、心地よさすら感じている。
・・・青藍は、私を、私として見てくれる。


「何か言ったらどうなの!?」
そう言われて深冬は考え込んでいたことに気が付く。
でも、こんな時、私はどうするべきなのだろうか。
いつもは姫と話すことなどほとんどない。
だから、どう答えるのが正解なのか、解らない。
姫たちに責められながら、深冬は途方に暮れる。


しかし、それを感じ取ってくれる者はその場には誰一人としていなかった。
途中、茶羅が彼女らに責め立てられる深冬に気が付いて間に入ろうとしたものの、彼女たちはそれを許さない。


姫たちが興味を持っているのは青藍だけなのだ。
朽木家の姫であろうと、どうせ他の家に嫁ぐのだから、と、茶羅のことなど、眼中にないのである。
青藍と結婚することになれば、義理の妹になるにも関わらず。


「貴方みたいなのがそばに居ると、青藍様の評判まで下がるのよ?」
「それに、貴方は加賀美家の養子なのでしょう?どこの誰だかわからない者の血を引く姫を青藍様が選ぶわけないじゃない。」
容赦のない言葉が、深冬の心に突き刺さる。

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