色彩
■ 37.本当の莫迦

『雪乃はまぁ、適当に深冬と付き合ってあげてよ。あの子、同期でちゃんと話すのは橙晴だけなんだ。入隊してからは十三番隊の皆に可愛がってもらっているようだけど。それから睦月にもそこそこ懐いているみたいだ。』
「それはいいけど・・・。もし、霊妃様と何かしら関係があるのだったとしたら、どうする気なの?」


『どうもしないよ。ただ、それを利用しようとする人が居るのならば、僕はそれを止めなければならない。そうならないためにも僕は彼女の正体を知っておく必要がある。個人的な好奇心もないとは言わないけど、僕の仕事には、漣家の力、つまり霊妃様の力を利用させないことも含まれているからね。あの子が霊妃様と何らかの関係があるのならば、僕はあの子が利用されないようにしなければならないわけだ。加賀美家があの子をどう扱うのかも監視しなければならない。』


「朽木隊長や咲ちゃんにはこのこと、話したのかい?」
『父上には話してあります。』
「咲ちゃんには?」
『母上は・・・母上を巻き込むと大事になりそうなので少し考え中です。それに、母上もそのことに思い当たっている可能性がある。その場合に、それを口に出さないのならば、それなりの理由があると考えるべきです。口に出すと面倒事を呼び込む事柄でもありますからね。』


「あはは。なるほど。」
『まぁ、あの様子ですから、その可能性は低いと思いますが。だから、母上には秘密にしておいてくださいね。』
「わかったよ。じゃあ、僕は帰るね。」
京楽はそういうと後ろ手に手をひらひらと振りながら帰っていく。


「・・・で?青藍?本当のところ、どうなのかしら?」
京楽の姿が見えなくなって雪乃は唐突に言い出す。
『え?何が?』
「何がって・・・貴方が深冬をどう思っているのか、ということよ。」
『可愛い!』


「・・・はぁ。私は真剣に聞いているの。霊妃様に関わる可能性があるとはいえ、貴方がそこまで他人に興味を持つのは珍しいわ。」
『そうかな。』
「自覚がないのね。最近、隊士たちの間で、深冬が青藍のお気に入りだ、という噂があるのよ?六番隊の隊士に聞いたら、深冬が来るたびに構っているという話じゃないの。」


『それは、まぁ、そうだけど。』
「あの毎回告白を断っている朽木青藍が、女の子に興味を持った。今まで家族以外のどんな女の子にも見向きしなかった貴方が。それがどういうことか解らないの?」
言われて青藍は考え込む。


『・・・・・・それは大変だ!深冬が雪乃みたいに呼び出されて苛められちゃう!』
そして青藍は大真面目にそんなことを言い出した。
「・・・は?」
これに雪乃は唖然とするしかなかった。
この男は一体何を言っているのだ、と。


『深冬は雪乃ほど強くないんだよ!?体も小さいし!苛められたら大変だ!』
そんな雪乃に気が付いていないのか青藍は焦ったようにそんなことを言い出した。
・・・この人、本当の莫迦なのかしら。
それともこれも計算?
それに、何気に私のことを馬鹿にしているわよね?
なんにしろ一回ぐらい殴ってもいいわよね。
そう思って雪乃は騒ぐ青藍に拳を振り落とす。


『いた!!!』
ゴツン、という音と共に青藍の叫び声が上がる。
『え?何?雪乃?僕、何かした?』
青藍は頭を抱えながら涙目になって雪乃を見る。
この様子からして本当の莫迦らしいわね。


「・・・はぁ。」
雪乃は思わず大きなため息を吐く。
『え?何?何なの!?なんで僕はげんこつされたの!?』
そんな雪乃を見て、青藍は困惑したようにいう。
「・・・なんとなく腹が立っただけよ。」
『えぇ!?何それ!?』
さらに騒ぎ立てる青藍を無視して、雪乃は歩き出す。

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