色彩
■ 35.皆で逃げ出す

雪乃が立ち上がると、青藍は音を確かめるように笛を鳴らす。
その音に、その場にいた者たちは注意を引きつけられた。
深冬の周りに居る者たちも視線を青藍たちに向ける。
雪乃は袂から扇子を取り出し、青藍を見た。


その視線を受けて、青藍は笛を吹き始める。
そして、その音を聞いて雪乃も舞い始めた。
朽木家次期当主の笛に周りの者は興味津々だ。
また、それに合わせて舞う雪乃の姿にその場にいる者全員の意識がこちらに向いた。


それを確認して、青藍は京楽に視線を送る。
京楽は心得たというように軽く頷いて、豪紀を連れてそろそろと深冬に近付いて行った。
深冬を抱え上げた京楽を見て、何だか人攫いのようだ、と内心で笑いながらも青藍は笛を吹いたのだった。


最後の一音が終わり、それと共に雪乃が動きを止めると、何処からともなく拍手が湧き上がる。
二人はその拍手に応えつつ、これで帰るという旨の挨拶をして部屋を後にしたのだった。
部屋を出て、二人は同時に笑い出す。


『あはは。見た?あの春水殿!』
「えぇ。おかしいったらないわ。まるで人攫いじゃないの。」
『だよねぇ。どう見ても怪しいおじさんが、可愛い女の子を攫って行く図だった。』
「本当よ。なんであんなにこそこそとしているのかしら。皆の注意はこちらに向いていたのに。」


『いつもああやって七緒さんから逃げているからじゃないかな。』
「それにしたって、おかしいわ。」
二人はそう言いながら廊下を進む。


「・・・悪かったね、人攫いのようで。」
そんな二人に後ろから拗ねたような声が掛かった。
『あはは。いえ、でもさすがです。皆さん、今頃深冬が居なくなったことに気が付いていることでしょう。』
「それはまぁ、こそこそと何かをやるのは僕の得意分野だからね。」


『その割にはいつも七緒さんに見つかっていますけど。』
「あはは。七緒ちゃんが鋭いだけさ。・・・それにしても、この子本当に人形みたいだねぇ。」
抱えていた深冬を降ろして、京楽は言う。


「助けて頂いたようで、ありがとうございました。」
そんな京楽に深冬は頭を下げた。
「いやいや。こんなにかわいい子のためなら僕は何だってするよ。」
そんな深冬の頭を京楽は撫でる。
『そうそう。京楽殿は女の子に弱いから、このくらい大したことじゃないんだよ、深冬。』


「そうか。でも、私はまた助けられたようだ。ありがとう。」
『別にいいさ。ついでに僕らも抜け出してきたからね。今日はもう帰ることが出来るよ。』
見上げてきた深冬を撫でながら、青藍は微笑む。
「そうか。・・・豪紀様、今日はもう帰られますか?」
「あぁ。これ以上、そいつに構っていてもいいことがないからな。」


『加賀美君ったら酷いなぁ。いつものことだけど。』
「お互い様だろう。・・・では、俺たちはこれで失礼します。」
豪紀は青藍にそう言い捨てると、京楽に一礼して深冬と共に帰っていく。
『深冬!またね!』
そんなことは気にせずに青藍は深冬に手を振ったのだった。

[ prev / next ]
top
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -