色彩
■ 32.無自覚すぎる二人

入隊してから数週間。
橙晴も深冬も問題なく仕事をしているようだった。
青藍もまたいつものように執務室で書類を捌く。


「失礼いたします。十三番隊、加賀美です。書類をお届けに参りました。」
そう言って深冬が六番隊の執務室に顔を見せる。
『あ、深冬だ。お疲れ様。・・・仕事は慣れた?』
書類を受け取りながら青藍は深冬に話しかける。


「あぁ。それなりに。咲夜様との稽古は大変だが。」
『あはは。それは僕も大変だった。・・・そうだ、深冬。』
「何だ?」
『今日、君は出席するかい?』
青藍に言われて深冬は首を傾げる。


『今日の夜、会合という名の酒宴があるだろう。』
「あぁ、行く。」
『じゃあ、これ。渡しておくね。ちゃんと飲んでくるんだよ?』
青藍はそう言って小さな包みを取り出す。


「解っている。いつも済まない。」
『別にいいよ。今日は雪乃も出席するようだから、今日は共犯者が増えるよ。』
青藍はそう言って悪戯っぽく笑う。
「雪乃様が?」
『うん。秋良様がいつも可哀そうな僕に雪乃を派遣してくださるようだ。』


「・・・そうか。でも雪乃様は豪紀様の元婚約者だ。」
『まぁ、あの二人も決して仲が良くはないけれど、同じ目的のためなら協力ぐらいするさ。』
「同じ目的?」
『さっさと切り上げて帰る。』
「なるほど。」


『僕らは明日も仕事だからね。酔っ払いに付き合っている暇はない。そうでしょ?』
「そうだな。咲夜様に夜はちゃんと眠らないとダメだと言われた。」
『そうそう。特に君みたいな小さい子は良く寝ないと背が伸びないよ。』
青藍はからかうように言う。


「それは困る。青藍にいつまでも小さい子と言われるのは嫌だ。」
『あはは。僕は別にそのままでも構わないけどね。可愛いから。』
「私は嫌だ!」
面白がるような青藍に深冬は不満げに言う。


『そうかなぁ。でも、君がどんなに頑張っても僕より大きくはならないと思うよ。』
そんな深冬に青藍は微笑んだ。
「・・・馬鹿にしているだろう。もういい。私は戻る。」
微笑む青藍に拗ねたような瞳をして深冬は踵を返そうとする。


『うわ、待ってよ。馬鹿になんてしていないって!』
「馬鹿にした。咲夜様に青藍に苛められたと報告してやる。」
青藍の制止を聞かずに深冬は扉へと向かっていく。
『いや、それはやめて!ごめんって。謝るから、ちょっと待って。』
そんな深冬に声を掛けながら青藍は焦ったように彼女を追いかける。
そして深冬の正面に回るとお菓子を取り出して彼女と目線を合わせた。


『これをあげるから、許して?』
「・・・。」
そんな青藍を深冬は不満げな瞳で見つめる。
『・・・うん。僕が悪かった。僕が悪かったから、そんな目で見ないで。ごめんなさい。』
青藍はそう言って深冬に頭を下げる。
そんな時、扉が開いた。


「・・・兄様、何をしていらっしゃるのですか。」
深冬に頭を下げている青藍を見て、橙晴は馬鹿を見る目で青藍に問う。
『あはは・・・。』
そんな橙晴に青藍は苦笑した。


「・・・青藍が私を馬鹿にした。」
「あぁ、なるほど。気にすることはないよ、深冬。兄様は阿呆なんだ。」
「そうなのか?」
「そうだよ。だから諦めてそのお菓子を貰って許してあげてくれないかな?じゃないと兄様、深冬に嫌われた、って仕事しなくなって僕が困る。」


「それは駄目だ。・・・わかった。許す。」
深冬はそう言って青藍の手から菓子を受け取る。
『ありがとう、深冬!なんか橙晴に暴言を吐かれた気がするけど、深冬が許してくれるならいいや。』
青藍はそう言って深冬を抱きしめる。


「やめ、やめろ!くる、苦しい!」
そんな青藍に深冬はバタバタと抵抗する。
「相変わらずですねぇ、兄様。・・・これで自覚がないのだから、色々と問題な気がするけど。」
後半を橙晴は小さく呟く。


『あ、逃げられた。』
「何か言ったか?」
青藍の腕から逃れた深冬は橙晴の方を向いて首を傾げる。


「・・・いや、なんでもないよ。また兄様に捕まる前に、隊舎に帰った方がいい。」
「あぁ。そうだな。では、私は失礼する。」
『またあとでねー!』
橙晴は、青藍のことを無視して一礼して出ていく深冬を見送る。
こっちも無自覚なんだよなぁ、と内心で呟いて。


深冬が素直に言うことを聞かずに反抗するのは青藍兄様に対してだけなのだ。
その他の者に対しては淡々と言われたことを熟すだけなのに。
これが特別でなくてなんだというのだろうか。
互いに無自覚すぎるのだ。


まぁ、それはそれで面白いから、僕としてはいいのだけれど。
一体このそういう方面において信じられないほど阿呆な兄様はいつそれに気が付くのやら。
そんなことを考えながら、橙晴は仕事に戻ることにしたのだった。

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