色彩
■ 31.母上による職権濫用

「・・・で、兄様?何故兄様が僕の指導係なのですか?それも僕だけ個別指導。」
新人研修が始まって橙晴は不満げに言う。
『あはは・・・。僕が指導すると、皆集中できないみたいでね。だから、僕は基本的には指導しないのだけれど。』


「では、何故僕に付いているのです?」
『他の皆が橙晴に教えるなんて恐れ多いって。だから僕が君に教えているわけだけれど。』
「なんですか、それは・・・。」
笑って言う青藍に橙晴は呆れたように言う。


『まぁ、いいじゃない。皆慣れれば、普通にしてくれるから、それまで少し我慢しなさいな。教えると言っても君に教えることはほとんどないのだけれど。・・・と、いう訳で、僕はちょっと十三番隊に行ってくる。僕が帰ってくるまでに、それ、終わらしておいてね。』
そう言って窓から逃げていく青藍に橙晴は深いため息を吐く。
そして、言われた通りに書類に手を伸ばしたのだった。


さてさて、深冬は何処かなぁ。
六番隊を飛び出した青藍は十三番隊に配属となった深冬を探していた。
二番隊を希望していた深冬だったが、その容姿が目立ちすぎるために、砕蜂がその実力に惹かれつつも他の隊へと回したのだった。


・・・本当は六番隊に入れたかったのになぁ。
青藍はそんなことを考える。
しかし、六番隊は既に主席の橙晴を獲得していたため、深冬の獲得権は他の隊に回された。
そしてそれをどこで聞き及んだのか、咲夜が浮竹に頼んで彼女を十三番隊へと入れさせたのだった。


十三番隊にはルキア姉さまだっているのに、毎日深冬がそばに居るなんて、母上ったらずるいや。
深冬の指導係は母上がやるのだろう。
本当にずるい・・・。
青藍は内心呟く。


そんなことを考えながら十三番隊舎を歩いていると、目立つ銀色を見つけた。
居た!
青藍はすぐにその銀色に近付く。
その隣には、青藍の予想通り咲夜が居た。


『やぁ、深冬。』
青藍がそう声を掛けると、深冬は青藍を見上げる。
「青藍・・・いや、朽木三席。」
『あはは。いつも通りでいいよ。それより、入隊おめでとう。』
「ありがとう。」
青藍に言われて、深冬の瞳が少し柔らかくなる。


『あーあ。十三番隊はいいなぁ。本当は六番隊に欲しかったのに・・・。』
青藍はそう言って横目で勝ち誇ったような顔をしている咲夜を見る。
「ははは。私の勝ちだな。暫く私が深冬を独り占めだ。」
咲夜は自慢するように言う。
『えー。母上、それはずるいです。』
青藍は不満げだ。


「ふふふ。私は深冬の指導係だからな。浮竹に頼んだのだ。」
『十四郎殿の職権濫用だ。』
青藍はそう言って拗ねる。
「はは。まぁ、いいじゃないか。どこぞの隊に任せるよりは安全だろう。」
『まぁ、それはそうですけどね・・・。』


「・・・青藍は不満か?」
拗ねたような青藍に深冬が首を傾げて問う。
『そうじゃない。十三番隊はとってもいい隊だよ。これはただの僕の我が儘。』
「そうか。」
深冬は心なしかほっとした雰囲気になる。


『ふふ。まぁ、深冬は十三番隊の皆に可愛がってもらうといいよ。十四郎殿や、ルキア姉さまや、母上や、キリトや三席の二人だっている。君はここで、君のやるべきことをやるといい。応援しているよ。』
青藍はそう言いながら深冬の頭を撫でる。
「解った。精進する。」


『うん。あ、でも頑張りすぎるのは駄目だからね?それから、たまには六番隊にも顔を出すこと。もちろん、僕も十三番隊に来るけど。』
「それも青藍の我が儘か?」
『そう!絶対だよ?』
「そうか。解った。」


『母上も独り占めは駄目ですから!僕だって深冬を可愛がりたい!独り占めしたら僕が深冬を攫って行きますからね。』
「ははは。それは困る。私だって可愛がりたいのだから。それに、この子の能力は高いぞ。育てるのが楽しみだ。」
咲夜は楽しげに言う。


『もう、またそうやって・・・。そう言われたら、僕はそう簡単に邪魔できないじゃないですか。』
そんな咲夜とは反対に青藍は詰まらなさそうに言う。
「ふふふ。」
『深冬。この人に苛められたら、すぐに僕の所に来るんだよ?わかった?』


「咲夜様は私を苛めたりしない。青藍とは違う。」
「あはは!」
深冬の言葉に咲夜は笑い声を上げる。
『もう。母上、いつの間にこんなに懐かせたのですか。ずるいです。』
「何を今さら。私と深冬は前から仲良しだぞ?なぁ、深冬。」
「はい。」
咲夜の問いに深冬は迷いなく頷く。


『そんな!?深冬、僕と深冬の方が仲良しだよね?』
「それは知らない。青藍は私を苛める。」
焦ったように言う青藍に深冬はそっぽを向いて淡々と答える。
『そんな・・・。』
そんな深冬に青藍は項垂れた。


これはなかなか面白い。
そんな二人を見て、咲夜は内心で呟く。
あの青藍が、他人に振り回されているのだ。
それも、こんなに小さな女の子に。
それにあの青藍が、女性に対しては紳士な青藍が、この子をからかって遊んでいるのだ。


どうやら青藍はかわいい子ほど苛めたくなる性分らしい。
それは、まぁ、白哉も、だがな・・・。
それはそなただろう、という白哉の声が聞こえてきた気がするが、まぁ、気にしない。
そう思って咲夜は色々と思い出しそうになる。
慌てて頭を振ってその思考を振り飛ばした。


それにしても、青藍がこれほど他人を構うのは珍しい。
睦月とルキアの言っていたことは本当だったか。
深冬には触れられるというのも、本当のようだ。
そんなことを考えながら、咲夜はお菓子で深冬を釣ろうとしている青藍を見守ることにしたのだった。

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