色彩
■ 銀色の少女

白哉は思案していた。
目の前で起こっていることを眺めながら。
白哉の足もとには芝生の上に落ちた真っ白なシーツ。
恐らく浮竹の物だろう。


此処は十三番隊で、雨乾堂からほど近い場所なのだから。
そのシーツの上には踏み台が倒れていた。
視線を上げると、物干し竿が役目を果たさずにただそこにある。
洗濯物を干していて、踏み台から落ちたのだろうな・・・。


「・・・出口が、ない、ぞ・・・?」
そんな声が聞こえてきて、白哉は視線を足元に戻した。
シーツの下で何者かがもぞもぞと動いている。
霊圧と声からして、何者かは解る。


「む・・・?こっちも、出られない・・・。」
どうやら本人は悪戦苦闘しているらしい。
困ったような声が時折聞こえてくる。


はて。
これは助けるべきだろうか。
それとも、何とかして出てくるのを待つべきだろうか。
もぞもぞと動き続けるそれを見ながら、白哉は顎に手を当てて思案する。


まだこちらには気付かぬらしい。
いや、霊圧も気配も消しているのだから当然か。
しかし、面白い。
本人は気付いていないようだが、先ほどから同じところを行ったり来たりしている。
それでは、出られまい。
その姿が毛布と遊ぶ子猫のようで、白哉は思わず頬を緩める。


「出られない・・・。」
そんな泣きそうな声が聞こえてきて、白哉は助けることに決めて、出口を塞いでいる踏み台に手を伸ばす。
これを泣かせると、後で咲夜と青藍が五月蝿い。
何より、子猫に泣かれては私も困る。
白哉とて、小さなものには弱いのだ。


「・・・小さいというのは、難儀だな、深冬。」
踏み台を退けて、白哉はそう声を掛ける。
「!?」
その声にシーツの下に居る深冬はびくりとその身を震わせた。
白哉は構わず、彼女を捕えていたシーツを捲り上げる。
中から出てきた銀色が、太陽の光を反射して眩しい。
銀色の隙間から紅の瞳が覗いた。


「無事か?」
髪の乱れを直してやりながら白哉は静かに問う。
深冬は相変わらずの無表情だが、その瞳が気まずげなのを見て取って、白哉は小さく笑う。
「あ、りがとう、ございます、白哉様・・・。お見苦しいところを、お見せいたしました・・・。」
気まずげに、白哉の視線から逃れるように、深冬は頭を下げる。


「構わぬ。・・・浮竹は?」
頭を上げさせながら、白哉は問う。
「雨乾堂にいらっしゃいます。今日は調子もよろしいようです。」
深冬は白哉を真っ直ぐに見上げて、そう答える。


「そうか。・・・今日も、良い天気だな。」
そんな深冬に軽く微笑んで、白哉は空を見上げる。
今日の空は、咲夜の瞳の色だ。
「そう、ですね・・・?」
唐突に呟いた白哉に首を傾げつつも、深冬は空を見上げた。


確かに咲夜の色だが、私はあの瞳が見たい。
空を見上げながら白哉は内心で呟く。
「あ・・・。」
すると、深冬が何かに気付いたように声を上げた。
「どうした?」
白哉は深冬に視線を移す。


「いえ・・・。空の色は、咲夜様の、色なので・・・。今日の空は、特に。」
「そうだな。」
「だから、白哉様は、空を見上げたのかと・・・。」
言われて白哉は内心苦笑する。
このような小さな娘に見抜かれるとは・・・。


「咲夜様も雨乾堂に居られます。白哉様のお姿を見れば、お喜びになることでしょう。」
そう言った深冬の瞳がどこか嬉しげで、これでは敵わぬと、白哉は苦笑を漏らした。
一体、どこまで見抜いているのやら。
そう思って、白哉は深冬をじっと見つめる。


「あの・・・?何か・・・?お気に、障りましたか・・・?」
戸惑ったような瞳が白哉を見つめ返した。
「・・・咲夜には、秘密だ。」
深冬の問いに首を横に振って、白哉は悪戯っぽく呟く。
それを聞いた深冬は驚いた瞳をして、それからその瞳が柔らかくなる。
「はい。」
頷いた深冬の頭を撫でて、白哉は雨乾堂へと向かったのだった。



2016.09.09
こっそり深冬を可愛がる白哉さん。
白哉さんは小さな子に弱い、と思うのは、私だけでしょうか。


[ prev / next ]
top
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -