色彩
■ 隠された闇B

京楽は嗚咽を漏らし始めた青藍をただ抱きしめることしか出来なかった。
掛ける言葉が見つからないのだ。
ただ、やるせない。
何故、あのような力があるのか。


霊妃だけではない。
霊王もまた同じ存在だ。
世界の楔。
その存在があるだけで、世界が保たれていることを知っている。
どれ程大きな力であるかを知っている。


しかし、その力に関わるものは、これだけの苦しみを、味わうことになるのだ。
一体、僕たちは何を守っているのだろう・・・。
そう考えずにはいられない。


暫くそうしていると、青藍の体から力が抜けていった。
京楽が驚いて青藍を覗き込むと、熱が出たのか、赤い顔をして、ぐったりとしている。
慌てて額に手を当てて、熱があることを確認すると、京楽は七緒を呼んだ。
「七緒ちゃん!そこに居るんでしょ?睦月君に連絡して。青藍、熱が出てきたみたい。」


京楽の声に、扉の向こうから返事が聞こえてきて、パタパタと駈けていく足音が遠ざかる。
それを聞いて、京楽は青藍の着物を脱がせて、その体を拭いてから、自分の予備の死覇装に着替えさせる。


「・・・ごめんね。」
着替えさせながら、京楽はそう零す。
何の謝罪なのか、自分でもよく解らないが、謝罪するしか、出来なかったのだ。
そうして、彼らの傍に居ようと、改めて固く誓ったのである。


それからほどなく睦月が到着して、青藍は朽木邸へと運ばれていった。
それを見送った京楽は疲れたように椅子に座りこむ。
七緒は白哉へその報告をするため六番隊に行っている。


「・・・はぁ。」
一人になった隊主室に、深いため息が響いた。
それがさらに京楽の心を重くさせる。
あれでは僕に話すのだって、辛かっただろうに。
声に出すだけでも、その事実を認めるようで、苦しかっただろうに。


あんなになるまで傷ついて、泣いて。
あの叫びは、きっと、青藍がずっと隠してきた本音だろう。
それを引きずり出してしまうほどに、咲ちゃんの闇は深い。
・・・確かに、僕にしか話せないねぇ。


浮竹に話せば、きっと、浮竹も一緒に泣いてしまう。
そして咲ちゃんの顔を見る度に、浮竹は顔を歪めてしまうだろう。
それに気付かない咲ちゃんじゃない。


かといって朽木隊長に話すことなど出来ないだろう。
彼がどれほど咲ちゃんを愛しているかは青藍が一番よく知っているのだから。
それを聞いたところで彼が咲ちゃんを手放すことはないだろう。
でも、それに心を痛める朽木隊長に、咲ちゃんは気付いてしまう。


卯ノ花隊長に話せば、受け止めてくれるだろうけど、女性に話すには酷な内容だ。
七緒ちゃんは、きっと全て聞いてしまったけれども。
僕に話したのは、僕なら隠し通せると思ったからだ・・・。
だから、僕は、これを、隠し通さなければならない。
こんなに重い、秘密を。


「失礼いたします。」
暫くぼんやりしていると、そんな声と共に七緒が姿を見せる。
「七緒ちゃん・・・。」
京楽は呟くように彼女の名を呼んで、視線を向ける。


「朽木隊長に報告してきました。咲夜さんたちにもすぐに連絡が行くことでしょう。」
「・・・そう。何処まで話したの?」
「霊妃様によくないものを見せられたらしい、とだけお伝えしておきました。」
七緒はそう言って目を伏せる。
その表情はどこか苦しげで、悔しげで、痛々しい。


「そんな顔をしないでよ、七緒ちゃん。君がそんな顔をする必要はないんだよ。」
「ですが・・・。」
「・・・うん。気持ちはわかるけどね。でも、僕らが暗い顔をしたら、青藍が僕に話した意味がなくなってしまう。話を聞いて、僕だって痛くて仕方がない。男の僕でさえ、これだけ痛いのだから、七緒ちゃんには辛いだろうね。」
京楽はそう言って七緒の頭に手をのせる。
七緒は唇を噛みしめた。


「・・・申し訳、ありません。私が聞くべきことではありませんでした。私などが、聞いていいことでは・・・。」
絞り出すようにそう言った七緒に、京楽は微笑む。
「謝ることはない。こっちこそ、辛い話を聞かせて、ごめんね。」


「いえ。私も、背負います。だから、京楽隊長も、一人で苦しまないでください。」
「うん。でも、この話は、僕らの胸に留めておこう。僕らは、何も知らない振りをして、今まで通りに彼らのそばに居ようね。」
「はい。」


「・・・よし。じゃあ僕はちょっと出かけてくるよ。」
京楽はそう言って隊主室から出ていこうとする。
「それは駄目です。」
七緒はそう言って、京楽を何処からか取り出した縄で縛る。
「ちょっと!?七緒ちゃん!?」
京楽はジタバタともがくが、動けば動くほど、縄がきつく食い込むだけである。


「一昨日の仕事がまだ終わっていません。つまり、昨日と今日の仕事も終わっていません。それに、今日のお散歩はもう終わったはずです。逃がしませんよ。やって頂かなければならない仕事が山ほどあるのですから。」
「えぇ・・・。」
彼等はそんないつものやり取りをして、何時もの日常に戻って行ったのだった。



2016.08.11
浄化編と覚悟編の間のお話。
咲夜さんの、本人すら知らない暗闇。
それを受け止めきれなくて、京楽さんに頼った青藍でした。
青藍は、それが出来るくらいには京楽さんを信頼しています。


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