色彩
■ 隠された闇A

青藍の言葉を聞いて、京楽は思わず目を伏せ、唇を噛みしめる。
もっと早く、出会っていたら。
そうすれば、もっと早く、助けることが出来たかもしれないのに。
京楽がそう思うのはこれが初めてではない。
彼女の闇を知るたびに、何度も何度も、そう思った。


『始めは、自分を傷つけることで、自分が生きていることを認識することが出来た。傷つければ痛かったから。でも、痛みを感じることがなくなって、それも、出来なくなってしまいました。それでも、母上は、自分を傷つけることをやめないのです。どうして、どうして、あんな惨いことが出来るのでしょう。どうしてあんな状態になるまで追い詰めることが出来るのでしょう。』
そう言って青藍は唇を噛みしめる。


『死なせてあげたくなるくらいに、惨かった・・・。あんなの、死んだ方が、ましだ・・・。』
苦しげに、絞り出すように、青藍は言う。
京楽もまた苦しくなった。
この子にそこまで言わせるような状態だったのか・・・。
今でも、咲ちゃんはその当時のことを殆ど語らない。


『それなのに・・・。さらに、惨い仕打ちが待っていた・・・。』
そこまで言って、青藍は口を閉じる。
そして、小さく呻いた。
「青藍・・・。」
京楽はそんな青藍の肩に手をのせる。


『・・・これは・・・母上も・・・知らない、ことです。でも、僕が、一人だけ、知っているのは、辛くて。だけど、誰にも話すことなんて出来なくて・・・。誰かに話せば、その人を苦しめる・・・。』


「・・・話していいよ。君は、それを、誰かに話したかった。だから、あそこに居たんだろう?いや、あそこで、僕を待っていた。僕になら話せるかもしれないと、思ってくれたんでしょ?」
京楽はそう言って青藍の頭を自分の肩に乗せた。
涙を流して、苦しそうで、すぐにでも壊れてしまいそうな青藍を、繋ぎとめるように。
青藍は小さく頷く。


「うん。だから、聞くよ。どんな話でも。僕に話してごらん。」
そう言われて、青藍は京楽の着物を掴んだ。
次々に流れ落ちる涙が、京楽の肩を濡らす。
落ち着かせるように、青藍の背を軽く叩いた。
『・・・・・・はは、うえ、は、おか、された、のです。』


ははうえはおかされたのです。
一瞬、京楽はそれを理解できなかった。
いや、京楽の脳が、理解することを拒んだのだ。
「っ!!」
その言葉を理解して、京楽は呻く。
鈍い痛みが全身を貫き、奥歯を噛みしめてそれに耐える。


『・・・壊れた、母上を、見限った、家臣たちが、漣の、血を繋ぐ、ために。まだ、少女と呼ぶに、相応しい母上を・・・。霊妃様が、それに気付いて、母上の意識を、閉じました。だから、母上の記憶には、それは、ありません。その者たちも霊妃様が廃人にしてしまった。でも、意識がなくても、あれは母上の体です。目を逸らしたかったけれど、霊妃様が、逸らすなと。これが、自分と関わる者が引き受けなければならない闇の一部なのだと。そう、おっしゃっていました・・・。』
自分のことのように、痛みに耐えるようにそういった青藍を、京楽は抱きしめる。


愛し子とは、愛されるものではないのか。
この子にそんなものを見せたのか。
愛する母の、誰も知らない、本人すら知らない、苦しみを。
それでこの子はこんなにも苦しんでいるのか。
それを背負うべき者が、この子だというのか。
京楽は湧き上がる怒りをどうにか抑えようと奥歯を噛み締めた。


霊妃。
貴女は鬼か。
こうなることを見通していたくせに、それでも、この子を傷付けるのか。
それに、何故、もっと早く咲ちゃんを助けなかったのか。
貴女にはそれが出来たはずなのに。
京楽は霊妃を恨みそうになる。
それから、自分の無力さを。


「・・・う、く、なぜ、なぜなのですか!!!」
耐えきれなくなったのか、青藍は叫び声を上げた。
「どう、して、ぼくなのですか。どうして、母上は、あんな思いを、しなければ、ならなかった!!!どうして、ぼくは、こんなに、苦しい!!!!れいひさま、は、その問いに、答えては、くださらなかった!!!」
京楽はその叫びを無言で受け止める。


「何故こんなに苦しいのですか。何故、こんなに痛いのですか。僕も母上も、ただ、普通に、生きたいだけなのに!!ほかの、ひとは、こんなに傷つかずとも、生きることが出来るのに!!!僕らが、くるしむことで、苦しむ人たちだって、居るのに!!!どうして、僕らばかり!!!・・・これが、せかいの、理だというのなら、ぼくは、世界を、うらんでしまう・・・。それなのに、僕は、すでに、世界の中にある。せかいに、繋がれている。今なら、母上が、せかいを壊そうとした理由が、よく、わかる・・・。」



2016.08.11
Bに続きます。


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