色彩
■ 隠された闇@

それは雨の日のこと。
京楽はいつものように隊士たちの様子を見まわりながら、傘を片手に歩いていた。
今日も変わりないようだねぇ。
特に暗い顔をしている隊士が居ることもなく、京楽は満足げにあたりを見回す。
「・・・あら?」
ある一点に目を止めて、京楽はそんな声を上げる。


雨の中、傘も差さずに佇む姿を見つけたからである。
一体、何をやっているのかな?
京楽は不思議に思って、その姿のある方へ歩いていく。
「青藍じゃない。何してるの?水も滴るいい男ってや・・・つ?」
そんなことを言いながら京楽は青藍の顔を覗き込み、目を見開いた。


泣いている。
いや、泣いた、のかな。
青藍の目は赤く、唇を噛みしめていた。
京楽が現れたことに、びくりと肩を揺らしてから、青藍は虚ろな目を向けた。


『・・・春水、殿。』
力なく呟くように言った青藍に、京楽は内心で首を傾げる。
この子がこれほど沈むような出来事があっただろうか?
死神の仕事で青藍が此処まで沈んだ姿を見たことはない。
というより、死覇装を着ていないところを見ると、別の用があったのだろう。
では、それが、青藍に涙を流させたのだろうか?


そこまで考えて、青藍の体が震えていることに気が付いた京楽は、一先ず自らの隊主室へ招くことにした。
「青藍、風邪、引いちゃうよ。とりあえず、僕の所においでよ。すぐそこだからさ。」
京楽はそう言って、青藍の返事を聞くことなく彼の腕を引く。
彼の着ている着物は雨を吸って重くなっているようだった。
血の気がなく、青褪めている。


青藍は抵抗することもなく、引かれるままに歩を進めた。
そんな青藍をチラリと見やりながら、京楽は考える。
隊士の殉職?
いや、それは、青藍も覚悟していることだし、それならそれで、鎮魂の舞を舞うだろう。


仲間が傷ついた?
でも、キリト君たち、元気そうだった。
先日、咲ちゃんが四十六室に拘束されたけれど、それはあの時に決着がついたはず。
考えながら、京楽は八番隊の隊舎へと足を踏み入れる。


京楽の姿を認めて、隊士たちは挨拶をする。
それからずぶ濡れでいつもと様子が違う青藍を見て、目を丸くした。
そんな彼らに沈黙しろと目で合図をして、京楽は歩を進める。
「京楽隊長!どこに行っていたのですか!!!」
京楽の気配を感じたのか、七緒がそう言って姿を現す。
七緒は京楽に腕を引かれている青藍を見て、目を丸くして、それから問うように京楽を見た。


「・・・七緒ちゃん、とりあえず、温かいお茶を隊主室まで持ってきてくれるかな。」
「はい。すぐにお持ちいたします。」
何かを感じ取ったであろう七緒はそう言ってすぐに踵を返す。
それを見て、京楽は隊主室へと向かった。


隊主室に入り、タオルを出して、青藍の頭に掛ける。
しかし自分では拭こうとしなかったため、タオルを手に取って彼の頭を拭く。
「青藍、僕で良ければ、話してみない?」
静かに、柔らかに、声を掛ける。
『・・・っ!』


ぽたり。
俯いた青藍の瞳から涙が零れ落ちた。
京楽はそれに目を丸くする。
これは重傷だ。


「無理に話すことはないよ?泣くほど辛いなら。」
『・・・・ちがうんです。・・・温かくて。春水、殿の、手が。』
青藍はそう言って京楽の手に触れる。
「青藍?」


『・・・他人の温もりを、感じることが出来るのは、幸せですね。』
青藍は、ぽつり、とそう言葉を零した。
唐突な言葉に、京楽は内心首を傾げつつも、彼の頭を拭きながら、頷く。
『こんなに、温かいなんて・・・。』
声を震わせながら、青藍は呟く。
その間も、ぽたぽたと涙が零れた。


「どうしたの、青藍。何があったのか、話して、くれるね?」
あやすように頭を撫でながら、京楽は言う。
青藍は小さく頷いて、口を開いた。
『・・・さっき、霊妃様にお会いしてきました。それで・・・それで、母上の過去を、見ました。』
その言葉に京楽は内心で納得する。


だから、これほど、傷ついて、苦しげなのか・・・。
先ほどの言葉はそういう意味なのか。
『母上は、本当に、暗闇の中に居ました・・・。傷ついて、傷ついて、助けを求めても、誰も居なくて。心を押し殺して。温かな日々に戻りたいと願って。それが叶わぬことだと絶望して。』
そう話す青藍の瞳からは絶えず涙が零れ落ちる。


『・・・何度も、蒼純お爺様の名を呼ぶのです。蒼純お爺様の幻を見ては、追いかけて、幻だったことにさらに傷ついて。次第に、心を閉じていった。心を閉じた母上の世界は白黒でした。空の青さを知らず、花の色の鮮やかさを知らない。他人の顔は黒く塗りつぶされたようでほとんど見えない。味覚も嗅覚も触覚も消えていった・・・。何を聞いても、何を見ても、心には響かない。』



2016.08.11
Aに続きます。


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