色彩
■ 25.橙晴の友人

「一体、何だったの・・・?」
「・・・ご褒美、だそうだ。」
「ご褒美?」
呟くような言葉に、橙晴は深冬を見る。
「たぶん、現世の時の、ご褒美。」
深冬に言われて、橙晴は何となく察する。


「そういうことか。全く、兄様ったら、すぐに甘やかすんだから。」
「そう言う割には、嬉しそうだが?」
「おやつが出来たからね。」
「そうか?」
「うん。そう。・・・でもなんか、ゼリーだけにしては、重いような・・・。」
橙晴は先ほど受け取った袋を開けて、動きを止める。


「どうしたのだ、橙晴?」
そんな橙晴に、深冬は首を傾げる。
「・・・兄様、最初からそのつもりか。」
「橙晴?」
「「十番隊」だってさ。これを冬獅郎さんたちに届けろ、ってことだね。」
袋の中から出て来たのは、甘納豆とそば饅頭。
それから、十番隊、とだけ書かれた紙きれ。


「日番谷隊長たちに?」
「そう。兄様、よっぽど時間がなかったんだね。それならそれで、ここに遊びに来るのをやめればいいのに。」
呆れたように言いながら、橙晴は青藍がわざわざ来た理由に思い当たっていた。


すぐに解ろう。
父上のあの言葉は、そういうことか。
だから、兄様はわざわざ会いに来たのだ。
深冬に。
この子は、兄様の、特別なのだ。
それがどういう特別かはともかくとして。


でも、きっと、兄様が自分から触れたということは・・・。
橙晴は考えながらチラリと深冬を見る。
・・・この子を、深冬を選ぶと言うことだ。
恐らくは。


「・・・苦労するなぁ。」
「そうだな。大変だな、橙晴。」
「あはは。僕じゃなくて、君がね。」
「?」


「なんでもない。・・・さて、じゃあ、僕は十番隊に遊びに行こうかな。深冬も行く?」
「いや、私は、遠慮する。」
「そっか。じゃあ、紫庵をよろしく。面倒臭くなったら、睦月の所に行けばいいから。」
橙晴はそう言って、青藍が出て行った窓へと足を掛ける。
それと同時に、廊下側のドアから、何者かが駆け込んでくる。


癖っ毛で、艶のある黒髪。
漆黒の瞳。
情けなく下がった眉。
未だ幼さを残した柔らかそうな頬。
彼こそが、現在の霊術院六回生の次席であり、橙晴の友人である、久世紫庵である。


「橙晴!授業飛び出して何しているの!!おれを、一人にしないで!!」
「五月蝿いな。君の世話は今、深冬に頼んだ。深冬に迷惑を掛けたら、後で苛めるからね。」
「えぇ!?何それ!?」
「じゃ、深冬。頼んだよ。騒がしいし、忙しないし、すぐ涙目になるし、面倒臭いけど、頭の悪い奴じゃないから、適当にあしらっておいてね。」


「ねぇ、橙晴!それ、おれのこと!?」
「五月蝿いよ。僕はこれからお出かけするの。じゃあね。」
「ちょ、ま、橙晴!!」
紫庵は追いかけようと走り出すが、橙晴はあっという間に姿を消す。


「だいせい・・・。」
霊圧も消しているのか、気配も解らなくて、紫庵は涙目になる。
「だいせいが、いないと、おれ、色んなこと、聞かれて、大変なのに・・・。」
「・・・大変だな、久世。」
「か、加賀美さん。た、助けて。」
縋るように言われて、深冬は逡巡する。


「・・・・・・医務室に行くぞ、久世。」
「え?でも、授業中・・・。」
「これ以上ここに居ても迷惑だ。・・・私だって、色々と聞かれるのは嫌だ。」
深冬は呟きながら、窓を閉めると、すたすたと教室を出ようとする。
「加賀美さん!?」


「いいか、久世。私と、久世は、今から病欠だ。行くぞ。」
それだけ言って出て行った深冬を紫庵は慌てて追いかける。
残されたクラスの面々たちは、暫くポカンとして、二人が出て行った扉を見つめる。
深冬が青藍も橙晴も呼び捨てだったことや、先ほどの青藍とのやり取りに疑問符を浮かべて。
一番早く我に返った教師が授業に戻ろうとするも、皆が集中できずに終わったのだった。

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