色彩
■ 23.変な奴

「それで、あれは何だ?」
白哉はそう言って空を見上げる。
そこには空中で未だ結界の中に入れられた深冬が居た。
『あ、そうでした。』
青藍はそう言うと飛び上がって彼女の元へと向かう。


「彼女は僕と一緒に引率で来ていた加賀美深冬という者です。」
「加賀美?」
「えぇ。あの加賀美家の姫だそうですよ。特進クラスではありませんが、今日の戦いぶりを見る限り、特進クラスでも上位に入るでしょうね。」


「そうか。あれが加賀美家の養子か。噂には聞いていたが、確かに珍しい色をしている。」
「睦月から聞いた話ですが、青藍兄様はあの子に興味を持っているそうですよ。それがどういう興味かはわかりませんが。」


「ほう。それは面白いな。・・・は?」
橙晴に頷いて、白哉は唖然とする。
そんな白哉に気付いた橙晴は、白哉の視線の先を見て、納得した表情になった。
青藍は、結界を解くと同時に手を出して、深冬を抱え上げたのだ。


「青藍が、自分から、触れた・・・?」
隣から零れてきた父の言葉に、橙晴は苦笑する。
「先ほども、一直線に深冬を助けに行って、抱きかかえていました。・・・兄様の女性不信が薄れてきているのでしょうか?」


橙晴に問われて、白哉は考え込む。
薄れてきている、というよりは・・・。
「・・・あの娘だから、だろうな。」
「え?」
「すぐに解ろう。」
首を傾げた橙晴に、白哉は目だけで笑った。


『父上。』
そんな会話をしていると、深冬を抱えて青藍が降りてきた。
青藍は彼女をゆっくりと地面に降ろす。
「朽木、白哉様・・・。お初にお目にかかります。加賀美深冬と申します。」
白哉を見上げてそう言うと、彼女は頭を下げる。


「お初にお目にかかる。・・・此度は大儀であった。橙晴と共によく持ちこたえてくれた。隊長としてお礼を申し上げる。」
「礼には及びません。私は自分のやるべきことをやったまで。それに・・・青藍様には命を助けられました。お礼を言うのはこちらの方でございます。深く、感謝いたします。」


「それこそ礼には及ばぬ。青藍は自分の仕事を熟しただけだ。」
『そうだよ、深冬。僕は僕の仕事をしただけ。というか、いつも通り話そうよ。父上も深冬も堅苦しい。』
言われて二人は気まずそうに目を逸らす。


「・・・だが、助けられたのは事実だ。あそこで青藍が来なければ私は斬られていた。」
『そうだとしても、君にお礼を言われるほどのことをしたわけじゃない。僕は僕のやるべきことをやっただけ。君が君のやるべきことをやったようにね。』
「でも・・・。」
『だから、いいの!・・・君ってば本当に諦めが悪いよねぇ。』


「・・・この場合、諦めが悪いのは青藍だと思う。」
青藍の言葉に少し拗ねたように深冬は言う。
『ふぅん?そう言うことを言うのはこの口かな?』
青藍は不満げに深冬の両頬をつまむ。


「にゃにをすりゅ!」
そんな青藍に深冬はジタバタと反抗する。
『口の悪い子供にお仕置き。』
「こども!?はにゃせ!!」


『じゃあ、僕の言葉に素直に頷く!じゃないとずっとこのままです。』
青藍はそういって意地悪く微笑んだ。
「うー。」
深冬はそんな青藍に悔しげな瞳をする。
『僕は僕の仕事をやっただけ。だからお礼なんかいらないの。解った?』


「・・・。」
『深冬?』
恨めしげに青藍を見る深冬に青藍は笑みを深める。
そして、頬を抓る指に力を入れた。


「いひゃ!!」
『頷かないと放してあげない。』
少々涙目になりつつある深冬を見ながらも、青藍は意地悪するように言った。
「・・・わかった。わかったかりゃ、はにゃしてくりぇ。」
青藍の瞳が本気であることを感じ取ったのか、深冬は諦めたように頷いた。
心の中でやっぱりあきらめが悪いのは青藍の方だ、と呟きながら。


『よし!いい子。』
その答えを聞いて青藍は彼女の頬から手を放すと、満足そうにうなずいて頭を撫でる。
「・・・兄様、大人げない。」
「・・・そのようだな。」
そんな青藍に、白哉と橙晴は呆れたように彼を見つめた。


「帰りましょうか。」
「そうだな。・・・青藍、遊んでいないで帰るぞ。」
『はーい。二人も気を付けて帰ってね。』
そういうと、その場にいた死神たちに後処理の指示をして、白哉と青藍は穿界門を開いて帰っていく。


「・・・なんか、兄様が、ごめんね。」
それを見送って、橙晴は隣に居る深冬に話しかける。
「あれは一体、何なのだ・・・。」
深冬は頬を擦りながら疲れたように言う。


「あはは・・・。兄様の友人に言わせると、兄様は竜巻だそうだよ。」
「・・・なるほど。」
苦笑しつつ言った橙晴の言葉に深冬は納得したように頷く。
「まぁでも、悪い人じゃないから、よろしく頼むよ。君のことを気に入っているようだし。」


「悪いやつじゃないのは解るが・・・やっぱり、青藍は変な奴だ。」
少し困ったようにそう言う深冬が面白くて、橙晴は思わず吹き出す。
「あはは!確かにそうだ!」
そう言って笑う橙晴を、深冬は不思議そうに見上げるのだった。

[ prev / next ]
top
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -