色彩
■ 17.嬉しい

『・・・はぁ。助かった。漸く一息つけたよ。』
廊下に出て部屋から遠ざかると、青藍はため息を吐いてそんなことを言った。
「私もだ。ああいうのは苦手だ。」
気を抜いた青藍をみて、彼女も気を抜いた様子である。


『いつもああなのかい?』
「そうだ。この髪と瞳が珍しいのだろう。まるで珍獣扱いだ。」
『あはは。それは大変だねぇ。』
「青藍も大変そうだった。」
『まぁね。』


「相当呑まされているようだったが。」
『ふふ。それは問題ないよ。ちょっとずるをしているから。・・・君は呑まされたりしていないかい?』
「あぁ。今日は大丈夫だ。相手が当主だと飲むときもあるが。」


ん?
それは、色々と問題があると思うのだけれど・・・。
淡々と言った彼女に青藍は首を傾げる。
『・・・君みたいな小さな子がお酒を呑んだりしては駄目だよ。君に飲ませようとする方も悪いけれど。』


「大丈夫だ。慣らされているから。」
心配するように言った青藍に彼女はあくまで淡々と答える。
『・・・はぁ。付き合いもあるから呑むなとは言わないけど、次から、お酒の席に出る時は睦月から薬を貰ってきなさい。僕から言っておくから。』


「薬?」
深冬は首を傾げる。
『そう。その薬を飲めば、お酒に酔うことはない。実は僕もそれを飲んでいる。』
「・・・なるほど。ずるとはそう言うことか。」


『あはは。そうだよ。お酒に酔って気が付いたら朝でした、なんて洒落にならないからね。君も気を付けた方がいいよ。』
「わかった。青藍が言うならそうする。」
『うん。いい子だ。』
青藍はそう言って彼女の頭を撫でた。


「・・・それは何だ?」
頭を撫でる青藍を深冬は不思議そうに見上げる。
『ん?何だって、何が?』
「この手は何なのだ?」
『君を褒めて頭を撫でているのだけれど・・・?』


「褒める時は頭を撫でるのか?」
青藍の言葉に深冬は首を傾げる。
『え?こうやって撫でられたこと、ないの?』
「・・・ない。」
目を丸くした青藍から目を逸らして、深冬は小さく言った。


『・・・そうか。じゃあ、僕が初めてだね。こうされるのは、嫌かい?』
逸らされた目を覗き込みながら青藍は言う。
「嫌、ではないが・・・。」
『どうしたの?』


「・・・どうしたらいいのか、解らない。」
ポツリと深冬は呟く。
その姿に青藍は苦笑した。


『大人しく撫でられていればいいよ。鬱陶しかったら振り払ってもいいしね。まぁ、それは相手を見て決めた方がいいときもあるけれど。ちなみに僕の手が鬱陶しいなら君は振り払ってもいいわけだけれど。』
「そうか。別に鬱陶しいとは思わない。」
『ふふ。そう。』
深冬の言葉に青藍は微笑む。


「・・・頭を撫でるのは、褒める時だけなのか?」
『うーん・・・。色々な時に撫でるかな。嬉しいときはそれを相手に分けるように。悲しいときはそれを一人で背負わせないように。楽しいときは一緒に楽しむように。寂しいときは一緒に居てくれるように。』


言われて深冬は考え込むように沈黙する。
その間、青藍は気のすむまで深冬を撫で続けた。
「・・・そうか。では、青藍。屈んでくれ。」
青藍を見上げて、深冬は言う。


『え?』
「私では手が届かない。だから屈んでくれ。」
『う、うん・・・。』
深冬に言われて、青藍は膝をついた。
目線が近くなった青藍を見つめて、彼女はそっとその小さな手を青藍の頭にのせる。
そしてその手をゆっくりと動かした。


突然の行動に青藍は思わず固まる。
な、なんで僕、頭を撫でられているの!?
なにこれ!?
すっごく恥ずかしいぞ・・・。


『あの、深冬・・・?』
青藍は恐る恐る彼女の名を呼ぶ。
「なんだ?」
『どうして僕の頭を撫でているの?』


「・・・嬉しいときはそれを相手に分けるように、頭を撫でるのだろう?」
『!!!』
首を傾げつつ言われて、青藍は目を見開く。
そしてガクリと、力を抜いて床の上にへたり込んだ。
・・・か、可愛い。
この子、可愛すぎるぞ・・・。


これってつまり、僕に頭を撫でられて嬉しかったってことだよね!?
ちょっと僕、嬉しいんですけど!
「せ、青藍・・・?」
へたり込んだ青藍に深冬は戸惑ったように声を掛ける。

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