色彩
■ 16.貴族の集会

青藍の決意表明から一か月ほど後。
青藍はすでに次期当主となったことを後悔しそうになっていた。
挨拶のためにあちらこちらの貴族の集会に顔を出しているのだ。
実はそのついでに白哉が自分の仕事を青藍に放り投げているのだが。
青藍はまだそのことに気が付いていない。


まぁ、それはそれとして。
何処へ行っても見合いの話。
正直、面倒だ・・・。
愛想笑いのし過ぎで、いい加減青藍の表情筋が攣りそうになっている。
いっそのこと、父上のように無表情になってやろうか。


そんなことまで浮かんできて、青藍はそれを振り払うように軽く頭を振った。
駄目だ・・・。
思考がやさぐれて来ている・・・。
青藍は心中でそんなことを考える。
そしてまた、今日もそんな貴族の集会に顔を出しているのだった。


さて、今日はどうやって逃げようかな・・・。
話し合いが終わって酒宴になると、青藍はあっという間に囲まれた。
今日の集会は当主でなくても参加できるもので、あちらこちらの姫君が顔を出しているのだ。
もちろん、青藍が集会に顔を出すと聞きつけてきた者たちなのだが。
彼女たちに囲まれて、青藍は仕方なく勧められるがままに酒を呑む。


どうにか潰して眠っている間に・・・。
と、いう魂胆が見え見えだ。
さらに、おそらく媚薬や睡眠薬も盛られている。
・・・睦月の薬を飲んできてよかった。
内心でそう呟きながら。


それにしても、酒が入った姫たちはいつもの淑やかさはどうした、と言いたいくらい強引である。
いつもなら青藍を見かねた当主たちが助け船を出してくれるのだが、今日は知り合いの当主が居ないのだ。


秋良殿も慶一殿も居ない・・・。
そのうえ、母上の同期で当主をやっている者たちも今日は出席していないみたいだ・・・。
・・・はぁ。
帰りたい。


やたらと青藍に触れてこようとする彼女たちをそれとなく躱しつつ、青藍は部屋の中を見渡す。
すると、男性陣に囲まれているある姿を見つけたのだった。


何時の間に来たのだろうか。
話し合いには出席していなかったはず・・・。
そんなことを考えながら、適当な理由をつけて、青藍は席を立つ。
付いて来ようとした彼女らをやんわりと制してそちらに向かったのだった。


『・・・へぇ。珍しい。』
青藍がそう言うと、彼に気が付いた貴族たちは道を開ける。
銀色の髪。
紅色の瞳。
そこに居たのは、着飾った深冬だった。
深冬は青藍に気が付いて、少しほっとした雰囲気になる。
それをみて、青藍は内心苦笑した。


「・・・お初にお目にかかります、朽木青藍様。私は、加賀美深冬と申します。」
流石に顔見知りだとバレることを避けたのか、深冬はそう言って頭を下げた。
『加賀美家の姫君でしたか。私は朽木青藍。お初にお目にかかる。・・・今日はお一人で?』


「いえ、兄とともに。」
彼女は淡々と答える。
どうやらこういう席でも笑うことはないらしい。
『兄?というと、豪紀殿ですか?』
「えぇ。兄をご存じなのですか?」
『はい。実は霊術院の同期なのです。』
「そうでしたか。」


『豪紀殿に合うのは久しぶりだ。これは会わない手はありません。積もる話もある。出来ることならば、お会いしたいのですが。』
青藍はにっこりと微笑む。
頭の中で、雪乃たちに嘘ばっかり!という突っ込みが入れられた気がしたが、まぁ、気にしないことにする。


「もちろん。兄も喜ぶでしょう。」
『豪紀殿は今どちらに?よろしければ案内していただきたいのですが。』
「では、ご案内いたします。先ほどお庭に行くとおっしゃっていたので、そちらへいってみましょう。」
そう言って軽く周りに一礼すると、深冬は立ち上がった。
そして、静かに歩いていく。

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