色彩
■ 13.父の苦悩と喜び

「・・・だが、そなたが当主になれば、そう簡単には消えることなどできぬ。当主とは行動の一つ一つが注目されるのだ。当主一人の行動が家を潰すこともある。当主になるということは、家に縛られるということだ。」
『はい。』


「だから私は、そなたに当主になってほしいと思う一方で、当主になってほしくはないと思っていた。朽木の当主になれば、そなたは逃げられぬ。咲夜のように逃げて生き延びるという方法をとることも出来まい。朽木家当主と漣家当主では立場が違う。朽木家の当主になれば、様々なものに雁字搦めにされて身動きが取れなくなってしまうだろう。」
白哉は静かに言う。


「・・・私は、それが怖い。私がルキアの処刑を止められなかったように、そなたが大切な者を切り捨てなければならなくなることがあるかもしれないと、そう思うと、苦しいのだ・・・。あのような痛みをそなたらが味わうと思うと、自らが朽木の当主であることを、朽木の者として生まれたことを、恨みそうになる・・・。」
白哉は呻くように言った。


『えぇ。』
「だが一方で、朽木は私の誇りなのだ。先祖代々、朽木家が果たしてきた役割はとてつもなく大きい。爺様や父上が朽木を背負って立つ姿が私は誇らしかった。」
『はい。僕もそう思います。』


「あのようになりたいと願ったのは、まぎれもなく私なのだ。この苦しみを味わうことも私は理解していた。理解したうえで受け入れた。だが、同じものを自分の子どもに背負わせるのは、親としては心苦しいのだ・・・。」


これが、父上の苦悩なのだ。
父上はこんな苦悩の中で生きている。
当主として、隊長として、男として、父として。
それぞれの立場が心の中でせめぎ合う。
酷く孤独で、苦しく、険しい。
僕もこんな苦悩の中で生きていかなければならないのだろう。


『でも、僕は当主になります。・・・今日、橙晴にすべて見抜かれました。何かあれば一人で逃げようとしていたことを。橙晴は、そんなことは許さないと言った。何か起こることが怖いなら自分で当主になって未然に防げばいいと。何か起こって身動きが取れなくなっても僕らを信じてくれと。』
青藍はそう言って顔を上げる。


『・・・そう言われて、僕は決めたのです。僕には心強い味方がいる。橙晴も、茶羅も、友人たちも。もちろん、父上や母上たちだって。僕はそれを信じます。そして、皆が信じてくれている自分自身を信じます。』
「・・・そうか。そなたが自分でそう決めたのならば、私は何も言わぬ。ただそなたらを見守ろう。」
白哉は小さく微笑む。


『はい。僕は、独りではない。一人でもない。そう信じられれば、なんだってできる気がします。どんな困難だって乗り越えて見せます。いつでも凛と前を見つめていられる。道を過たず、何処までも進んでいくことが出来る。だから僕は、信じると、決めました。』
青藍はそう言って微笑む。
それを見て、白哉は少し困ったように、少し泣きそうに微笑んで、大きくなった我が子の頭を思い切り撫でる。


『父上!?』
そんな驚きの声を気にすることなく、白哉は撫で続ける。
この喜びをなんと伝えればよいのだろう。
早く、この喜びを分かち合いたい。
彼女は、咲夜は何というのだろうか。


驚くだろうか。
泣くだろうか。
笑うだろうか。
それとも、全部だろうか。
寂しくないと言えば嘘になる。


我が子が、自分の手の中から飛び立とうというのだから。
しかし、それよりも大きな喜びが白哉の胸を満たした。
そして誰よりも大きく、誰よりも高く、誰よりも強く羽ばたく子どもたちの姿が見えた気がした。

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