色彩
■ 12.覚悟

その日の夜。
月が夜空に上り始めるころ。
青藍は白哉の私室へと向かった。
『父上。少し、よろしいでしょうか。』
青藍がそう声を掛けると、中から入るように声が掛かる。
『失礼いたします。』
襖をあけて中に入ると、白哉は障子をあけ放ち、縁に座って、月を眺めていた。


「どうした?」
白哉は視線を月から青藍に移す。
『お話があります。父上には先にお伝えしておこうと思いまして。』
真っ直ぐ白哉を見つめて言った青藍に何かを感じ取ったのか、白哉は青藍を傍に呼び寄せた。
青藍は白哉の隣に、静かに正座する。


「話とは、なんだ?」
白哉に問われて、青藍は一度瞼を閉じる。
そして、深呼吸をすると、閉じた瞼をゆっくりとあける。
『朽木家の、今後について。』
青藍の言葉に白哉は目を軽く見開く。


『朽木家の当主にお聞きいただきたい。』
「・・・よかろう。」
白哉は頷いて、青藍の方へ体を向ける。
青藍は体を向けた白哉を真っ直ぐに見据える。
『この朽木青藍を、朽木家の次期当主の候補に入れて頂きたく存じます。』
その言葉に、白哉は目を丸くした。


『これまで、私は長男という立場でありながら、次期当主の候補として名乗りを上げることを避けてきました。それは、私の力量では、朽木家を守ることが出来ないと、考えていたからです。ですが、もう、逃げるのはやめにします。』
迷いのない瞳で、青藍は言う。


「・・・覚悟はあるか。朽木という名を背負う覚悟が。朽木家の当主の手には、何千、何万の命が握られている。一つ上手く手を打てば、多くの命を救うが、一つ間違えば、多くの命を失う。」
『解っております。』


「その権力の大きさゆえに、簡単に多くのものを奪ってしまう。」
『はい。』
「その責任故に、時には心を殺さねばならぬ。」
『はい。』


「それでも、朽木の名を背負えるか。」
白哉は青藍を見つめて問うた。
『はい。朽木家に生まれた者として、覚悟を決めて、その責を全うしたく存じます。』
そういって青藍も白哉を見つめ返した。
「・・・そうか。ならば、今後は私の下で当主の仕事を学ぶことを許す。」


『はい。よろしくお願いいたします。全てを学ばせて頂きます。』
白哉の言葉に青藍は指をついて頭を下げた。
そんな青藍を見て、白哉は小さく息を吐く。
そして、自分を見つめる瞳の強さに気圧されていたことに気が付き、内心苦笑した。


「頭を上げろ。・・・ここからは、そなたの父としての言葉だ。」
『・・・はい。』
言われて青藍はゆっくりと頭を上げる。
「そなたの才は私も認めている。すぐに当主となっても問題なくことを運ぶことが出来るだろう。しかし・・・。」
白哉はそこで言葉を切る。


「そなたは咲夜に似ている。」
『えぇ。』
「そなたは霊妃の愛し子だ。」
『はい。』
「故に、そなたを家に縛り付けるのは、心苦しい。さらに、この間のことで漣家の力が公になり、この先、その力を狙う者が出てくるだろう。当然、そなたも巻き込まれる。そなたも、それが解っているから今まで当主になるなど口にはしなかったのだろう。」


『はい。愛し子ということを抜きにしても、朽木家当主の長男で、漣の巫女の血を引き、尚且つ母上に似ている僕が力を持てば、それを恐れ、狙う者があります。だから、僕は、今後あのようなことが起こった時、僕だけが居なくなれば解決するように、事を運ぼうとしていました。そうすれば、母上も、朽木家も護ることが出来る・・・。』
青藍はそう言って俯く。

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