色彩
■ 11.分岐点

「そうか。・・・私は、笑えない。」
『へぇ。』
「笑えないだけじゃない。私は表情が変わらないそうだ。だから、もっと感情を出せと言われる。でも、どうしたらいいのかが、解らない。」


そうだろうか。
少なくとも今、青藍には深冬が困っている様子が分かる。
表情が変わっていなくても、そんな雰囲気を感じ取ることが出来る。


『別に、無理しなくてもいいんじゃない?あのね、感情なんてものは、相手をちゃんと見ようとすれば、何となく解るものだ。もっとも、解りづらい感情があるのも確かだけれど。』
「そんなものだろうか。」


『そんなものだよ。少なくとも、今、僕は、君がそれで本当に困っていることが解る。』
青藍の言葉に、深冬は少し驚いた様子になる。
『ふふ。今は、少し驚いたみたいだね。』
その様子をみて、青藍は微笑んだ。
「・・・やっぱり、青藍は、変な奴だ。」
青藍に微笑みかけられて、深冬はそう呟く。


『えぇ?改めて言われると、何だか落ち込むなぁ。』
「変な奴だが、青藍の手は、大きくて、温かい。」
そう言った深冬は青藍の手を握る手に少し力を入れる。
それでも不快感などは全くなくて。
・・・この子、とっても可愛いんですけど。
青藍は内心でそう呟く。


「では、ここでいい。邸はすぐそこだ。」
深冬はそう言って立ち止まる。
『そっか。じゃあ、またね。』
青藍がそう言うと深冬は目を丸くする。
「また?またがあるのか?」
その瞳に少しの期待があるような気がして、青藍は微笑む。


『もちろん。僕、霊術院にはよく行くんだ。橙晴のクラスが騒がしいときは大体僕のせいかな。』
「・・・そうか。あれは、青藍のせいなのか。」
『うん。五月蝿かった?』
「いや、私は気にしない。そうか。あれは、青藍なのか・・・。」
『どうかした?』
「何でもない。では、また。」


『うん。またね。』
青藍はそう言って、去っていく深冬の姿を見送る。
夕焼けに染まった銀色の髪が美しい。
その姿が見えなくなってから、彼女の手を握った自分の掌をまじまじと見つめた。


『本当に、大丈夫だった・・・。』
不思議そうに呟いて、その手を軽く握る。
彼女の手の感触がまだ残っていた。
その口元が小さく緩んでいるのだが、本人は気付いていないらしい。
その瞳に映る、感情にも。
何故、彼女に触れることが出来るのか。
そんな疑問に答えが出るのは、まだ先のこと。


「・・・やはり、出会ったか。」
二人の間に繋がりが出来たことを感じて、霊妃は目を覚ます。
「あぁ、また、未来が変化した。」
変わっていく未来に、霊妃は目を閉じる。



幸せを手に入れると同時に、苦しみに耐えなければならぬ。
青藍・・・。
我が愛し子よ。
「・・・すまぬ。妾の存在がそなたらを苦しめる。」
霊妃は呟いて、再び微睡み始めた。


橙晴との約束。
深冬との出会い。
この日の出来事が、青藍の人生を大きく変えた。

[ prev / next ]
top
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -