色彩
■ 10.小さな手

触ることが出来た。
自分から触れられる女の子なんて、初めてではないだろうか。
小さい子だから平気なのかもしれない。
その小さな手は、温かくて、何だか安心した。
半ば深冬を引き摺りながら青藍はそんなことを考える。


幼い頃のトラウマのお蔭で、未だ女性不信の青藍は、自分から女性に触れることが出来ない。
己の母と、ルキアと、妹である茶羅、第二の母である卯ノ花は別として。
女性死神の面々が相手ならば、触れようと手を伸ばすことは出来るようになった。


だが、それだけしか出来なくて、七緒さんは困ったように僕の手を包み込んで、乱菊さんはそんなことは関係ないというように僕を思い切り抱きしめる。
決して、彼女たちが嫌いなわけではないのに、といつも申し訳なく思う。


『・・・諦めが悪いなぁ。』
そんなことを考えながら暫く歩いて、青藍はそう言って立ち止まる。
深冬は青藍に引き摺られながらも、ずっと抵抗を続けていたのだ。
「・・・あきらめが、悪いのは、どっちだ。」
深冬は息を切らせながら言った。
『女の子を送るのは男の役目だよ。』
「私はそれを断った!」


『あのねぇ。いくら瀞霊廷の中だからって、そう安全なわけじゃないんだよ?ましてや君みたいな小さくて力のない子は、襲われたりしても逃げられないんだからね?』
「そういう時は鬼道でも使って逃げる。」


『じゃあ、今、僕から、鬼道を使って逃げて見せてよ。それが出来たら、君を送るのは諦めよう。』
青藍の言葉に、深冬は青藍の手から逃れようとじたばたともがく。
しかし、青藍はびくともしない。


『・・・はぁ。君は本当に諦めが悪いようだ。』
暫くそうしていたが、青藍はため息を吐きつつ言った。
「この、まだ、まだだ・・・。」
そんな青藍に深冬は悔しそうな声を出す。


『まだ解らない?こんな風に手を掴まれたら、君は鬼道を撃つことも出来ないんだよ。それでどうやって逃げるのかな?』
「・・・。」
青藍の言葉に深冬は漸く抵抗をやめた。
そして、息を切らしながらその顔を俯かせる。


『わかった?』
青藍の問いに彼女は小さく頷いた。
『解ったら大人しく僕の横を歩く。』
そしてやっとのことで二人は並んで歩き出したのだった。


『あーあ、君があまりにも諦めないから、君の手、真っ赤になっちゃったじゃないか。』
青藍はつないだ手を見て呆れたように言った。
「諦めが悪いのはそちらだろう。お蔭で私は手が痛い。」
深冬は疲れたように言った。


『あはは。ごめんね?邸に着くまでに治してあげるから。』
青藍はそう言って手をつないだまま治癒能力を使う。
「・・・青藍は、変な奴だ。」
治されていく手を横目で見つつ、深冬はそう呟いた。
『ふふ。まぁ、普通じゃない自覚はあるよ。』


「・・・普通じゃないというのは、息苦しいものだ。」
『まぁ、そう言う時もあるね。』
「それなのに、何故、青藍は、笑える?」
深冬は青藍を見上げて言った。


『・・・僕には、僕を僕として、受け入れてくれる人たちが居るからだよ。』
「青藍を、青藍として?」
『うん。僕は、朽木家の長男だし、六番隊の第三席だし。家柄や、霊圧や、この瞳の色だって、他の人とは違うんだろう。でも、そんなこと関係なしに、僕を友人と呼んでくれる人たちがいる。仲間だと認めてくれる人たちがいる。』


「友人に・・・仲間・・・。」
『もちろん、家族もいる。だから、僕は笑える。心の底から。まぁ、たまぁに、作り笑いもするけどね。』
青藍はそう言って悪戯っぽく笑った。

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