色彩
■ 9.予感

医務室で着替えて、外に出ると、ちょうど午後の実習も終わったらしい。
家路につく生徒の姿であふれかえっていた。
その様子を影から見ていた青藍はその中に、目立つ銀髪を見つける。
・・・さっきの子だ。


再び青藍が目を奪われていると、視線に気が付いたのか、深冬は青藍の方を見る。
思わず合った目に青藍が内心動揺していると、彼女の方から青藍に近付いてきた。
そんな彼女の思わぬ行動に、青藍は焦る。
咄嗟に逃げようかとも思ったが、彼女は迷いなくこちらに歩を進めてきた。


逃げるに逃げられず、青藍は困惑する。
そうとは知らず、彼女は青藍の前まで来ると、その歩みを止める。
そして、その瞳を真っ直ぐに青藍に向けてきた。


「先ほどは、寝起きだったとはいえ、朽木青藍様と気付かず、申し訳ありませんでした。」
彼女はそう言うと深く頭を下げる。
『え?・・・いや、そんなこと、別にかまわないよ。だから、頭を上げて。』
青藍に言われて、彼女はゆっくりと頭を上げる。


「お隣にいらっしゃったのは、朽木ルキア様にございましょう?本当に、ご無礼をいたしました。」
『別にいいって。それに、そう畏まらないでくれるかな。僕、あんまりそう言うの、好きじゃないんだ。話し方も、さっきの話し方の方がいいな。』
青藍はそう言って微笑んだ。
そんな青藍に、深冬は不思議そうな目をする。


「・・・そうか。では、そのように。私は、加賀美深冬という。六回生だ。」
『そう。僕は朽木青藍。青藍でいいよ。よろしくね、深冬さん。』
「深冬でいい。たぶん、青藍様より私の方が年下だ。」
彼女は相変わらず無表情で淡々と言った。


『じゃあ、僕のことも青藍でいい。』
「いや、それは出来ない。私の方が年下だから。それに、青藍様は朽木家の方だ。」
笑って言った青藍に彼女は生真面目にそう返す。
『ふふ。年なんてそう関係ないさ。それに、僕がそれで良いと言っている。』
「しかし・・・。」


『じゃあ僕は君のことを深冬姫と呼ぶけれど。』
渋る深冬に青藍がそう言うと、その瞳に嫌そうな光が写る。
「それは・・・やめてくれ。」
『嫌なら僕のことを青藍と呼ぶことだよ。』


青藍がそういうと、少し困ったような雰囲気で、深冬は黙り込む。
そして暫くすると、覚悟を決めたように青藍を見上げた。
「・・・わかった。・・・青藍。」
深冬は小さく呟くように青藍の名を呼ぶ。
それに青藍は破顔した。


『うん!』
青藍の笑顔に彼女はまたもや不思議そうな雰囲気になる。
・・・僕、さっきから雰囲気で彼女を感じ取っているね。
まぁ、いいか。
見上げてくる彼女に青藍はそんなことを思う。


『という訳で、そんな深冬を僕が邸まで送ってあげよう。』
「どういう訳だ?文脈が全く繋がっていない。」
『あはは。まぁ、それは気にしないでよ。・・・加賀美家に行けばいいのかな?』
「その必要はない。」
笑って歩き出そうとする青藍に深冬はきっぱりと言った。


『君みたいな女の子を一人で帰らせるわけにはいかないよ。』
「大丈夫だ。今までも一人で帰っていた。」
この子、自分の容姿に自覚がないのかな・・・。
青藍は内心で呟く。


『今までは大丈夫でも、今日は危ないかもしれないでしょ。』
「今までが大丈夫だったのだから、今日も大丈夫だ。」
深冬はそう言って青藍を見つめてくる。
その瞳の何と美しいことだろう。


あぁ、でも、僕、この子は、大丈夫だ・・・。
それは、確信に近い予感。
『・・・駄目。今日は僕が送るの!』
深冬の瞳に負けそうになりながらも、青藍は駄々をこねるように言う。
「・・・。」
そんな青藍に深冬は困った雰囲気になる。


『もう、いいもんね。深冬が何といおうと、僕が引きずって行くから。』
青藍はそういうと、深冬の手を取って歩き出す。
「何をする。私は必要ないと言ったはずだ。」
それに反抗するように深冬は踏ん張った。
しかし、小さな彼女がどんなに頑張っても、青藍にどんどん引きずられていってしまうのだった。

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