色彩
■ 4.綺麗な子

「ん・・・。」
話をしつつ、お茶を飲んでいると、ベッドに眠っていた人物が目を覚ましたようだった。
睦月はすぐにベッドに近寄っていく。


「お目覚めですか?」
「・・・あぁ。私はどのくらい眠っていた?」
「一刻ほどです。まだ眠っていてもいいですが。」
「いや。授業に出る。いい加減、実習の単位が危ういからな。」
淡々とした物言いだが、その声は鈴のように澄んだ声である。


綺麗な声だ。
そして何より青藍の興味を引いたのは、その容姿であった。
銀色に輝く髪。
紅色の美しい瞳。


青藍は思わず彼女を見つめる。
そんな青藍に気付いているのか居ないのか、睦月と話しながら、彼女はベッドから降りる。
髪がさらりと揺れて、光を反射した。


身長は130センチくらいだろうか。
髪の長さは肩につく程度。
まだ幼い。
でも、こんなに綺麗な子、初めて見た・・・。
青藍は内心でそう呟く。


青藍は数々の貴族の姫を見てきた。
その中には美しい者もたくさん居た。
しかし、青藍はそれらの者たちを見ても、特に何も感じることはなかった。
いや、美しいとは感じるが、それ以上の感想は浮かんでこなかったのだ。
姫たちがどれほど微笑んでいようと。


しかし、目の前の彼女は貴族の姫のように微笑んでいるわけでもない。
むしろ無表情だ。
だが、その凛とした雰囲気に青藍は引きつけられたのである。
美しいだけではない、何かに。


「・・・ん?何だ?客が居たのか。」
青藍とルキアに気が付いたのか、彼女はそんな声を上げる。
「えぇ。五月蝿くて目が覚めたのなら申し訳ありません。」
睦月がそう声を掛けると、彼女は首を振る。


「いや、そんなことはない。むしろ客人にお見苦しい姿をお見せしたようで申し訳ない。」
彼女は苦笑したような声を出す。
相変わらずその顔は無表情なのだが。
「構いませんよ。突然やってきたのはこの方々ですからね。」


「そうか。・・・よく眠らせてもらった。礼を言う。」
彼女は軽く睦月に頭を下げる。
「それは良かった。」
睦月はそれを見て微笑む。
「では、私はこれで失礼する。」
彼女は再び一礼すると、医務室から出て行ったのだった。


「・・・睦月、あの子は?」
青藍と共に彼女に見とれていたルキアが、扉が閉められた音で我に返ったように問うた。
「六回生の加賀美深冬。よくここに眠りに来る。」
『・・・加賀美?加賀美って、あの加賀美?』
青藍は首を傾げる。
「そうだ。彼奴は加賀美家の姫君だ。つまり、あの加賀美の妹だ。といっても、加賀美豪紀とは血の繋がりはないらしいがな。」


『どういうこと?』
「さぁな。俺も詳しくは知らない。」
「六回生ということは橙晴と同じ学年だな。」
「あぁ。クラスは違うがな。彼奴は二組だ。本来ならば、一組に入ることが出来るんだが、彼奴はそれを断り続けている。」


『・・・ふぅん。・・・綺麗な子。それに、綺麗な声だった。』
溜め息を吐くようにそう言った青藍に、ルキアと睦月は目を丸くする。
青藍が心の底からそう思っていることが分かったからだ。
「お前、彼奴に興味があるのか・・・?」
睦月が恐る恐るそんなことを聞く。


『え?』
睦月の言葉に青藍は首を傾げる。
「お前、女相手によく綺麗だとか可愛いとかいうが、いつもやたらと微笑んでいうからどっか嘘くさいんだよ。つか、軽い。本気じゃないのがバレバレ。」
「そうだな。まぁ、それに気が付いているのは青藍と親しい者たちだけだが。」


『あはは。そんなことないと思うけど。だって、姉さまは可愛いよ?』
「ルキアを含めた家族や仲間に対しての言葉は本当だが、お前、それ以外には興味がないのか、適当なんだよ。どうやら自分では気が付いていないようだが。」
「確かにそうだ。口が上手い、ともいうのだろうが。」
ルキアは睦月の言葉に頷く。


『そうかなぁ・・・。まぁでも、気にはなるよね。あの容姿だし。それに、あの子、霊妃様と同じ瞳の色をしていた。霊妃様の瞳はもっと燃えるような激しさがあるけど。あの子の瞳は澄んだ静かな瞳だ。』
「まぁ、そうだな。」
『でも、紅色の瞳なんて、珍しいよね。』


「確かにそうだが、生まれたときからあの色らしい。恐らくあの髪と瞳の色は突然変異だろう。あの肌の白さから見て、もともと色素が薄かったことも考えられるが。彼奴は他の奴よりも少し陽の光に弱い。長時間日に当たっていると、熱を出す。肌も真っ赤になって痛々しい。」
『へぇ。そんな体なのに死神になろうなんて、変な子。』
青藍はそう言ってお茶を啜る。

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