色彩
■ 苦労人の性

「あ、修兵。明日、女性死神協会でお花見をやるんだけど、お弁当、作ってくれない?」
「乱菊さんの頼みなら喜んで。」
「檜佐木さん。これなんですけど、九番隊に資料ありますか?」
「阿散井か。その辺探せ・・・って、この散らかり様じゃ無理だな。ちょっと待ってろ。確かこの辺に・・・。」


「編集長!!京楽隊長からの原稿が上がっていません!!」
「すぐに探しに行け!お前の仕事は俺が引き受けるから!」
「修兵!呑みに行くわよ!」
「乱菊さんも一緒なら是非!!」


「おい、修兵。白は?」
「さっきまでそこに居ましたけど・・・。」
「・・・またかよ。まぁ、いい。これはお前に任せる。俺は任務だ。」
「解りました・・・ってこれ、期限明日までじゃないですか!!」


・・・うちの副隊長は、その内、過労死するんじゃないかと思う。
次々に修兵を訪ねてくる者たちをチラリと見ながら、侑李は内心で呟く。
入隊してすぐに解ったことだが、青藍の言っていた通り、うちの副隊長は苦労人らしい。
交友関係が広く、何かと頼られる存在であるということは、己の上官として頼もしい。
入隊してまだ数週間だが、それだけの能力があることもよく解った。


「俺、自分より頼まれごとをしやすい人、初めて見たわ・・・。」
小さく呟きを漏らして、侑李は修兵と目が合わないように書類に視線を落とす。
入隊初日から、瀞霊廷通信編集部に誘われているのだ。
青藍のお蔭で隊長と副隊長は一隊士である俺の顔と名前を覚えているらしい。


嬉しいことではあるが、青藍のせいで面倒事に巻き込まれる予感がしてならない。
侑李は、それはなるべく避けたいと、目立たないようにしているのだった。
もっとも、毎日のように修兵に声を掛けられているので、その努力は無駄になっているのだが。


定刻を大幅に過ぎた頃。
任務が長引いた侑李は、報告書を書くために執務室にやって来た。
提出は明日でもいいのだが、今日やっておけば明日は早く帰ることが出来るだろうと考えて、一人、やって来たのだった。


「・・・・・・はぁ。」
執務室に入ると、小さく灯りが点いていて、深い溜め息が聞こえてきた。
こんな夜遅くまで仕事をしている人が居るのか・・・?
侑李が執務室を見回すと、書類の山の向こう側に誰かが居るようだった。


「・・・誰だ?」
此方の気配に気付いたのか、書類の脇から頭がひょこりと出てくる。
「朝霧か。お疲れ。」
「お疲れ様です、檜佐木副隊長。」
「こんな時間にどうしたんだ?お前らの班は任務が長引いて直帰だと連絡があったはずだが。」


「いや、そうなんすけど・・・今日のうちに報告書を書いてしまおうかと。」
侑李の答えに、修兵は苦笑する。
「真面目な奴だな。無理すんなよ。」
「はい。今日やっておけば、明日が楽ですから。」
「まぁ、そうだな。」
頷いて、再び書類の山に隠れてしまった修兵を見て、侑李は自分の執務机に座る。
そして、筆を手に取って、報告書を書き始めた。


「・・・は?・・・はぁ!?」
もうすぐ報告書も書き終わろうかという時、そんな叫び声とがたりと立ち上がる音が聞こえて、侑李はびくりとする。
忙しすぎてついにご乱心かと、恐る恐る修兵の方に視線を向けた。
立っているために、書類の山の上から、上半身が見えている。


「ど、どうしたんすか・・・?」
嫌な予感がしながらも、侑李は問う。
「何でこんなところに原稿が・・・。」
「え?原稿すか?」
「しまった・・・。こっちが清書だ・・・。入稿は明日の朝一番・・・。こっちの書類は明日の正午締め切り。間に合うか・・・?」


頭を抱える修兵の言葉から、侑李は何となく状況を推測する。
・・・俺はやっぱり、苦労の多い星の元に生まれてんだな。
内心で諦めたように言って、侑李は報告書を書き上げて、筆をおく。
そして、覚悟を決めたように席を立って、修兵の元へ行った。


「・・・檜佐木副隊長。」
「あ?・・・終わったのか。」
「終わりました。」
「おう。お疲れさん。」
弱々しく笑う修兵をチラリとみてから、侑李は彼の机の上の書類をざっと見る。
そして、その内の一山を手に取った。
修兵はそれをポカンと見つめる。


「これ、平の隊士でも出来る書類じゃないすか。もしかして、休んだ隊士の分を引き受けたんすか?」
「確かに、そうだが・・・。」
「・・・はぁ。」
その答えに、侑李は呆れて溜め息しか出ない。


「お前、俺は一応副隊長だぞ。副隊長の前で、堂々とそんな深い溜め息吐くなよ・・・。」
呆れたように言われるが、侑李は気にしない。
「手伝います。」
「は?だって、お前の仕事は終わってんだろ?」
「でも、副隊長の仕事は終わっていないのでしょう?」


「そんなことは・・・あるが。」
「で、何やら緊急事態が発生したようなので、期限に間に合わない、と。」
侑李の呆れた口調に、修兵は言葉を詰まらせる。
「だから、手伝います。その分、残業手当弾んでくださいよ。」
「・・・!!」
漸く侑李の意図を理解したのか、修兵は瞳を輝かせた。


「助かる!流石「侑李」。俺が見込んだだけのことはある。俺ってやっぱ天才・・・。」
「何言ってんすか、「修兵さん」。いいからやりますよ。・・・徹夜覚悟だな、これ。」
溜め息を吐いて、侑李は席に着くと筆を執る。
俺も修兵さんも損な性分だよな・・・。
侑李は内心苦笑しつつも、筆を進めた。


翌日、何とか全てを間に合わせた二人がソファで爆睡している姿を見た拳西は、やっと修兵の世話係をする気になったのか、と、侑李に修兵の補佐を命じる。
その命令の裏に、これで俺は編集部に関わらなくて済むだろう、といった意図があったことを侑李が知るのは、侑李が編集部に欠かせない存在となってから。
侑李の苦労は、まだまだ始まったばかりである。



2016.08.04
困っている人を放って置けない侑李。
頼られたら断らない修兵さんのせいで仕事が増えるので、平隊士ながら、徐々に修兵さんの扱いが雑になっていくのでしょう。
侑李の副隊長の補佐任命には、修兵に働きすぎで倒れられては困る、という拳西さんの優しさと、良いように使われてかわいそうな奴、という若干の憐みが含まれています。


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