色彩
■ 隊長命令

「・・・この度、十番隊に配属されました、御剣京と申します。至らない点もあるかと思いますが、ご指導、ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。」
入隊式を終え、京たち十番隊の新人は、隊長への挨拶に来ていた。
淡々と言って一礼した京に、十番隊隊長日番谷冬獅郎はじっと視線を向ける。


「・・・あの、何か・・・?」
それに気付いた京は、首を傾げた。
「・・・いや。隊長を目の前にしても緊張しないあたり、流石青藍の友人だと思ってな。」


「あはは・・・。ご存知でしたか・・・。」
「当たり前だろ。」
「睦月さんが、問題児五人組の一人だと言ってたぞ。」
「それは少し違うかと。問題児なのは青藍です。」


「まぁ、それには同意する。・・・で?お前は何が得意だ?」
「得意な方から順番に、歩法、鬼道、白打、剣術。」
京の答えを聞いて、冬獅郎は逡巡する。
「・・・なるほどな。それから、一つ聞きたいことがある。」
「何でしょうか?」


「何故、二番隊はお前をうちに寄越した?」
真っ直ぐに問われて、京は苦笑する。
「顔です。」
「は?」


「・・・少々目立つ顔をしているので、隠密には向かないと一目見て他の隊に回されました。」
「目立つ顔?」
「・・・あー、まぁ、眼鏡を外した方がいいですかね。」
京はそう言って眼鏡を外して、軽く前髪をかき分ける。


出て来たのは、中性的で、無駄に綺麗な顔。
長い睫毛に大きな黒目。
形のいい眉。
すっとした鼻筋と、薄めの唇。
派手さはないが、繊細で、細部まで整っているのが解る。
一度見てしまえば、忘れられない顔だった。


「・・・なるほど。」
納得したような冬獅郎を見て、京は眼鏡を掛け直す。
「まぁいい。うちに来たからには、その顔も、青藍の友人という肩書も、通用しないと思え。」
「心得ております。」


「よし。じゃあとりあえず、お前、松本捕縛・監視班な。通称松本班。」
「・・・は?」
当然のように言われて、京は唖然とする。
「・・・残念なことに、うちの副隊長はサボり魔だ。無駄に逃げ足が速い。」
「・・・。」


「彼奴が仕事をしなければ、隊務が滞る。彼奴を捕まえて、仕事をさせるのがお前の仕事だ。・・・青藍の名前を出して脅してでも捕まえて来い。」
付け足された言葉に、京は再び唖然とする。
それから頭を軽く振って、口を開く。
「・・・先ほどと言っていることが違う気がするのは気のせいですか?」


「気のせいだ。・・・まぁ、毎日凍った隊舎で仕事をしたいなら、断ってもいいが。」
どうする、と視線で問われて、京は内心でため息を吐いた。
・・・これは立派な脅しなのではないのだろうか。
どうして入隊早々隊長直々にこんな圧力をかけられなければならないのか。
ちらりと同期の面々を見れば、顔を青褪めさせて、縋るような目でこちらを見ている。


「・・・それは、隊士の一般業務とは、別に、ということでしょうか?」
「いや。松本の監視と捕縛に専念していい。松本を捕まえて仕事をさせれば、お前らの仕事は松本の監視のみ。松本に逃げ切られれば、松本の仕事はお前らが処理する。その場合は、最低三日の徹夜を覚悟しておけ。」
軽く言われて、京は頭を抱えたくなった。


「まぁ、副隊長の補佐という所だな。」
「新人には荷が重すぎます・・・。」
「俺だって別に思いつきで言っている訳じゃない。お前を総合的に評価して、こんな話をしている。二番隊からの誘いが来るほどには早いその足、ただの新人と同じ任務じゃ物足りないだろ?・・・というわけで、お前、松本班な。」


「・・・拒否権はないのですね。解りました。引き受けさせて頂きます。」
「物分かりがいいな。」
「僕だって、氷の隊舎で仕事をするのは嫌です。」
諦めたように呟いた京に、冬獅郎は小さく口角を上げる。
「やっぱお前、青藍の友人だな。」
「青藍の友人でいるには、諦めがよくないといけないので。」


「確かにそうだ。・・・あぁ、あと、青藍に関してのことだが。」
「なんですか・・・。」
「彼奴が十番隊に来たら、とりあえず俺の部屋に放り込んでおけ。」
疲れたように言う冬獅郎に、京は首を傾げた。
「何故です?」


「お前は彼奴の顔を見慣れているかもしれないが、あの顔を見ると仕事に集中できなくなる奴が大勢居るんだよ・・・。仕事の邪魔だ。顔を見せたら隊主室に連れて行け。まぁ、彼奴もそれを解っているから、勝手に窓から出入りしているだろうが、気にするな。俺の部屋で茶を飲んでいようが、菓子を食っていようが、寝ていようが、気にせずに放っておけ。あれはいつものことだ。特に、寝ている時は起こしてやるな。」


・・・青藍。
君は一体、日番谷隊長の部屋で何をしているの・・・。
友人の顔を思い浮かべて、京は内心で呟く。
いや、そんなことをしても放って置くあたり、日番谷隊長も青藍には甘いと言うことか。
そう思いながらチラリと視線を送れば、冬獅郎はそれに気付いたようだった。


「何だ?」
「・・・いえ。青藍の恐ろしさを再確認しただけです。」
「そうか。それじゃあ、早速で悪いが、さっきから帰ってこない松本を探しに行け。お前の新人研修の担当は松本だ。仕事が出来るようになるには、松本を捕まえて教えて貰うしかないからな。」


・・・なんか僕、貧乏くじを引いた気が。
この先を思いやられながらも、京は頷きを返す。
「解りました。」
「松本班は執務室の南側に居る奴らだ。そいつらに声を掛けて、出動しろと伝えろ。その後はそいつらに付いて行け。」
「はい。」


「それじゃ、もう行っていい。これが最初の隊長命令だ。」
「はい、日番谷隊長。では、失礼します。」
隊主室を出て、廊下を早足で歩きながら、京は今後訪れるであろう様々な苦労を予見して、小さくため息を吐く。
それでも、その口元には微かな笑みが浮かんでいた。



2016.07.21
入隊初日から隊長命令を受ける京。
同期以外の隊士たちからは恨まれるでしょうが、実力が伴っているので次第に認められることでしょう。
霊術院の歩法の授業では、青藍に次ぐ次席。
眼鏡を外すことはほとんどありません。
綺麗な顔のせいで色々と苦労をしてきたせいだろうと思われます。


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