色彩
■ 29.身代わり大作戦A

『それで、十一番隊に行ったら、剣八さんに勝負を挑まれて、戦っている間にやちるさんが女性死神協会に連絡してしまってね・・・。慌てて剣八さんを鬼道で動けなくして逃げ出したんだ。それから、十二番隊に行ったんだけど、阿近さんに邪魔だから帰れって追い出されて、十三番隊に行ったら十四郎殿が写真を撮られていてね・・・。』
青藍はまたもやため息を吐く。


『可哀そうだったなぁ。十四郎殿。』
「・・・なるほど。それで霊術院に来たわけですね。」
『うん。もうね。僕、疲れたよ・・・。砕蜂隊長に追われるとか心臓に悪いよね。僕、何も悪いことなんかしていないのに。』
そう言って青藍は座り込む。


「それでもあの砕蜂隊長から逃げ切ってきたのですね。・・・事情は分かりました。ですが、青藍様。そこに居られては生徒たちが集中できません。せめて橙晴様のお部屋に行かれてはどうでしょうか?」
睦月がにこやかに言う。


「そうですね。そう言うことなら僕の部屋をお貸ししますよ。」
『えー。あの部屋、死神の皆さんがどれほど自由に出入りしているか、僕は身をもって知っているのだけれど。邪魔しないからここに置いてよ。』
「無理です。残念ながら兄様の存在自体が邪魔になっています。」
橙晴が呆れたように言う。


『そんなぁ。・・・皆、僕が居たら、邪魔?』
青藍はそう言ってクラスを見渡した。
青藍は小首をかしげている上に、座った状態なので上目遣いになっている。
そんな青藍に女子生徒たちは思い切り首を横に振った。
男子生徒たちも本人を前にして邪魔だなどと言えるものは居ない。


「・・・兄様。僕のクラスメイトを誑かさないでください。あざといですよ。」
橙晴はため息を吐きつつ、青藍に言う。
『誑かしてなんかいないさ。皆が協力してくれるなんて、僕、嬉しいなぁ。』
そんな橙晴の言葉を気にすることなく、青藍は笑顔を振りまいた。


もちろん、確信犯である。
にこにこと微笑む青藍をみて、橙晴は再び大きなため息を吐く。
睦月は既に諦めた表情を浮かべていた。
そこへ、伝令神機への着信がある。


『あら?父上だ。・・・はい、青藍です。・・・えぇ。解りました。じゃあ、睦月をお借りしていきますね。今、霊術院に居るので。・・・はい。さすがにそれは・・・。それでは、すぐに向かいますね。』
電話に出た青藍はそんなことを話して、電話を切る。


『という訳で、睦月、仕事だ。』
電話を切った青藍は睦月を見てにっこりと言った。
「は?」
『虚の大量発生があってね。恋次さんが隊士たちを引き連れて向かって全て処理したのだけど、負傷者多数で身動きが取れないんだって。だから、治療に向かえってさ。』


「それは四番隊の仕事では?」
『あはは。そうなんだけどね。僕らの方が、足が速い。』
「卯ノ花さんたちの方が速いと思いますけど。」


『烈先生が出るほどのことじゃない。動けないだけで、命に別状はないそうだ。それに僕が近くに居ると騒がしいから流魂街にでも行って来いってさ。あと、四番隊に要請するのは面倒だ、という父上の物ぐさ。まぁ、四番隊を呼ぶとなると、書類仕事が増えるからね。』
青藍はそう言って苦笑する。


「・・・はぁ。解りました。ではすぐに向かいましょう。ご当主様は時々面倒くさがりになるようですね。」
『ふふ。まぁ、いいじゃない。それだけ睦月の腕を信頼しているということだよ。』
「では、期待にお答えしなければなりませんね。」


『うん。・・・それから、橙晴。』
「はい?」
『この羽織、預かって置いて。後で父上に返してね。』
青藍はそう言って隊長羽織を橙晴に投げる。
「・・・わかりました。」
適当に投げられた羽織を、橙晴は呆れつつも受け取る。


『着てみてもいいと思うよ。』
「それは流石に遠慮します。」
『そう?橙晴は父上に似ているから似合うと思うけどなぁ。』
「確かにそうですねぇ。あ、そうそう。ついでに授業の続きもお願いいたします、橙晴様。」
睦月はそう言ってにっこりと微笑む。


「睦月!?それはどうかと・・・。」
「主席の橙晴様なら問題ありません。」
『あはは。僕もよくやったなぁ、それ。』
「僕は兄様ほど出来るわけでは・・・。」
『何を言っているの。僕は霊術院の成績は次席だよ。だから主席の橙晴なら大丈夫だよ。』


「兄様の次席は計画的次席じゃないですか・・・。」
『じゃあ橙晴は計画的首席だよね。』
「・・・普通に主席をとるよりも、次席を狙ってとるほうが難しいと思います。」
『あはは。いいじゃないの。まぁ、頑張れ、橙晴先生。じゃあね。』


「では、よろしくお願いしますね、橙晴様。次回の授業は小テストを行いますから。」
そんなことを言い残してあっという間に姿を消した二人に、橙晴は内心文句を言いつつも、一つため息を吐くと、周りを見渡す。


そして、ポカンとしているクラスメイトに苦笑を漏らすと、隊長羽織を綺麗に畳んでから、授業の続きを始めたのだった。
その後、結局朽木家の力によって、女性死神協会の目論見が潰え、青藍に平和な日常が戻ったという。



2016.08.08 浄化編 完
〜覚悟編に続く〜
橙晴は咲夜さん拘束の一件で、朽木橙晴だとばれました。
なので睦月の平穏は遠退きそうです。
ですが、この一件で咲夜さんは一つ闇を乗り越えたのだと思います。
咲夜さんだけでなく、朽木家全員が。
成長し、強くなっているのが青藍だけではないというのが伝わっていると嬉しいです。

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