色彩
■ 24.我が愛し子

白哉は、霊妃の舞に感嘆しつつも、あることに気が付く。
「・・・十五夜。」
そして舞を見つめている十五夜の名を呼んだ。
「ん?どうした?」


「どうやら、あの春乃嵐は、ああして使うのが正しいらしいな・・・?」
「・・・。」
白哉に言われて十五夜は動きを止める。
「兄は確か、毎度毎度、あれで我が隊舎を破壊していたな?」
そんな十五夜を白哉はじとりと見つめる。


「あはは・・・。」
その視線と言葉に十五夜は顔を引き攣らせて笑う。
「・・・後で覚えておけ。」
そう白哉に言われて、十五夜は顔を青褪めさせたのだった。


そんなことがありつつも、笛の音の最後の一音が溶け込むように消えると同時に、霊妃の舞も終わる。
あたりを見渡すと、そこには破壊されたはずの建物が、以前と同じようにそこにあった。
霊妃は春乃嵐を閉じて、ゆっくりと下降してくる。


青藍はそんな霊妃の元に駆け寄った。
そして、降りてきた体をふわり、と受け止める。
「青藍、此度は大儀であった。咲夜を救ってくれたこと、礼を言う。」
『母が子を思うように、子が母を思う。ただ、それだけのことです。』


「そうか。また、そなたの舞を見せておくれ。」
霊妃はそう言って微笑む。
『もちろん。良いものを見せて頂きました。僕も精進します。そのうち、漣家に参りましょう。』
青藍もまたそう言って微笑んだ。
「では楽しみにしていよう。」
そう言って霊妃は青藍の額に自らの額をくっつけた。


「我が愛し子に幸多からんことを。妾はそなたらの幸せを祈っている。何かあればいつでも呼ぶがいい。どんな場所にもすぐに駆けつけよう。」
『はい。』
「では妾はしばし眠る。咲夜と白哉を頼んだぞ。」
『お任せを。』
青藍の言葉に微笑むと、霊妃は瞳を閉じたのだった。


「・・・あれ?終わったのか?」
霊妃の気配が遠ざかると同時に咲夜はそう声を上げた。
その瞳の色は澄み渡るような空色である。
『ふふ。終わりましたよ、母上。』
青藍はそう言って咲夜を地面に降ろす。


「そうか。心配をかけたな。」
『いいえ。よく戻ってきてくださいました。・・・お帰りなさい、母上。』
「あぁ。ただいま。」
そう言って二人で微笑みあう。


『・・・さて、これ以上母上を独り占めしていては、父上も橙晴も茶羅も拗ねてしまいますね。ルキア姉さまも心配していますし。行きましょうか。』
青藍は悪戯っぽくそう言って咲夜の手を取った。
「そうだな。」


「あ、やっとこっちに来ましたわ。」
「そのようだな。」
「本当だ。良かったですね、父上。兄様に母上を取られなくて。」
「青藍などに、取られるものか。」
駈けてくる二人を見て四人はそんなことを話す。


「いやいや。皆さん、あれを見せられて平然としているのはおかしくないですか?」
睦月は呆れたように言った。
「だよな?お前もそう思うよな?」
「お前は黙れ。馬鹿師走。茶羅に助けてもらうとか使えなさすぎだろ。」


「でも、師走さん、意外と武闘派よ?それにあっという間に相手を麻痺させちゃうんだから。」
「こいつは十二番目だが、それはこれの母親が草薙の一族じゃないからで、こいつの腕は本来俺とそう変わらないんだよ。本気を出せば。」


「へぇ。師走さんって意外と使えるんだ。」
「そうよ。意外と使えるの。」
「使えるって・・・。」
双子の言葉に師走はため息を吐く。


「だからね、父上。師走さんを私に貸して下さいな。睦月は色々と忙しいようだから、この人に教えてもらうわ。」
「えぇ!?御嬢さん、何を言ってんですか。俺はただの医者ですよ。」
「それの扱いは睦月に任せてある。睦月に聞け。」
「それ!?それって酷くないですかね?朽木のご当主。」


「そうですの?じゃあ、睦月、この人、貸りるわね。」
「何で俺には決定事項として伝えるんだよ・・・。まぁ、好きに使え。お前もせいぜいこき使われろ。茶羅は手厳しいぞ。」
「えぇ。任せて。嫌っていうほど使ってあげるわ。」
「・・・俺、来る場所間違えた気がするわ。」
師走はそう言って頭を抱えるのだった。


「しかし、驚いたな。見事に元通りだ。」
戻った瀞霊廷を見渡して、浮竹は言う。
「そうだねぇ。こんなものを見せられたら、もう手出しなんて出来ないよねぇ。」
「僕があれだけ言ったのだから、手出しなんてさせないよ。これでも僕は霊王様の筆頭家臣だからね。」


「まぁ、筆頭家臣でいられるのはこの僕が貴方のそばに居るからですけど。」
「ちょっと!?響鬼、それ、酷くない?僕ちゃんと仕事できるんだけど!」
「僕がそばに居なければ霊妃様と連絡を取ることすらできない人が何を言っているのですか。」


「それ以外のことでも他の皆の三倍くらい働いているよ!?」
「それは、家臣の仕事以外に雑用を押し付けられているだけです。」
「えぇ!?そんな・・・。僕、千年以上、ずっと雑用を押し付けられていたの・・・。」
十五夜はそう言って項垂れた。

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