色彩
■ 23.本来の力

「さて、では、私は、この瀞霊廷の片づけをしなければ。大叔父様、お手伝いいただけますね?事情を知る者たちはいいとして、その他のものは下がらせてください。」
「もちろんだよ、咲夜。流石にこの瓦礫の山となった瀞霊廷の修繕費を朽木家に負担させるわけにはいかないからね。この惨状では護廷隊の任務にも支障が出てしまうし。「護廷」の仕事はつつがなくやってもらわなければ困る。」
十五夜はそう言って春乃嵐を咲夜に差し出す。


「えぇ。」
咲夜は微笑みながらそれを受け取った。
その間に、浮竹たちが四十六室を始めとした者たちを誘導する。
それを見た咲夜は目をつむった。
次第に咲夜の気配が変わり、咲夜が再び目を開くと、その瞳は紅に染まっていた。


「ほう。こうして呼ばれるのは久しぶりじゃ。」
霊妃は珍しいという風に言う。
「お呼び立てして申し訳ありません。」
そんな霊妃に十五夜は一礼した。


「ふむ・・・。咲夜を繋ぎとめたのは白哉だが、咲夜を止めたのは青藍か。流石我が愛し子よ。我が加護を与えた者たちも力を尽くしたらしい。」
「左様にございます。しかし、この惨状ゆえ、お力をお貸しいただきたい。」
「よかろう。では、笛の音も必要じゃのう。・・・弥彦、こちらに来い。天音も来るといい。」
霊妃がそういうと、弥彦と天音が姿を現した。


「あれ?私は刑軍に追われていたはずなのだけれど・・・。」
「私も軟禁されていたはずですが・・・。」
二人は首を傾げながらあたりを見回す。
「妾が呼んだ。弥彦、笛を吹け。妾が舞う。」
「なるほど。では、吹かせていただきましょう。」


「青藍。我が愛し子よ。いつまで眠っておるのじゃ。」
霊妃はそう言って青藍の額を小突く。
『ん・・・。』
小さく声を上げて、青藍はゆっくりと目を開いた。
「まだ眠かろうが、少し我慢せい。」


『霊妃、様?あれ・・・?全て、終わったのですか?』
「そうじゃ。これから、世界を元に戻すために妾が舞う。その目でしかと見つめておけ。霊王を虜にする舞と笛が揃っている。そう簡単にみられるものではないぞ。」
『はい・・・。』
言われて青藍は起き上がる。


「そなたらもよく見ておけ。これが本来の漣の、妾の力だ。」
そう言うと霊妃は空中に浮かび上がる。
それを見た弥彦は笛を唇に当てる。
霊妃は春乃嵐を開いて、空に向けて一振りした。
すると、青藍が呼んだ雲が割れ、あっという間に青空が広がる。


弥彦が笛を吹き始めた。
その笛の音は天へと昇って行くようだ。
霊妃が一歩踏み出すと、その場の空気が何か柔らかなもので満たされる。
いつもの清浄すぎて肌を刺すような厳しさはそこにはなかった。


柔らかく、温かく、慈愛に満ちたような。
そんな空気が瀞霊廷を満たしていく。
そして霊妃がひら、と春乃嵐を振るたびに暴走した咲夜によって破壊された瀞霊廷が元の姿に戻っていくのだった。


そんな舞をみて、いまだ半分眠っていた青藍は完全に覚醒した。
戻っていく。
全てが、綺麗に直されていく。
笛の音が、舞が、世界の歪みを正していく。
温かく柔らかな空気が満たされていく。


誕生の舞だ。
青藍は内心で呟く。
柔らかく、どこか懐かしい気配。
幼いころ、母の腕に抱かれていた時のような。


母上が、帰ってきたんだ・・・。
霊妃の舞をみて、青藍はそう実感する。
舞っているのは霊妃だが、そこに咲夜が居ることが青藍には感じられたのだ。
青藍の口元は思わず緩む。


そして、自分の体が軽くなっていることにも気が付く。
見ると、白哉や橙晴、京楽、浮竹たちも不思議そうにしていた。
これも霊妃様の加護って奴なのかな・・・。
青藍がそう考えて霊妃を見ると、霊妃はこちらに目を向けているようだった。


そして、青藍と目が合うと、その目が柔らかく笑う。
ありがとうございます。
青藍は心の中でそう言って、霊妃に頭を下げた。
この時青藍は、霊妃の力の大きさを実感し、それを恐れることのない己の特異さを理解して、この先その力に翻弄されていくことを予見したのだった。

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