色彩
■ 15.滅びの舞

『・・・清めよ、若雷!!』
目を開けた青藍がそう叫ぶと、青藍と咲夜の周りに凄まじい雷が落ちる。
『この雷がこの場に満ちている限り、この場は僕のものです。母上、行きますよ。』
青藍はそう呟くと、咲夜と同じ高さまで飛び上がる。


咲夜はそんな青藍が見えていないのか、ゆっくりと舞い始めた。
咲夜が動くと、ぞくり、とするような冷たい空気がその場に流れる。
青藍はそれを阻止するように、雷を身にまとい、咲夜の舞を見る。


・・・滅びの舞だ。
咲夜の舞をみて、青藍は確信する。
先ほど卯ノ花には解らないと言ったが、青藍はある程度予測をつけていた。
そして、霊妃も滅びの舞と言っていたのだ。


これならば、逆に舞うことが出来る。
そう考えて、青藍も舞い始めた。
青藍が動くと咲夜とは反対に温かく、柔らかな空気が流れる。
二つの空気が衝突して、その場は異様な空気で満たされた。


やはり、母上の舞の方が強い。
青藍はそう感じて、舞いながらも雲を操って雷でその場を満たす。
それでも青藍は息苦しさを感じていた。
咲夜から発せられる滅びの気配が、青藍の心を脅かすのである。


なんて恐ろしい気配・・・。
気を抜くと、足が震えて崩れ落ちてしまいそうだ。
逆の舞を舞っていても、滅びの気配は徐々に広がっている。
青藍にはそれが黒い靄のように見えた。


大きくなる靄は、恐怖を具現化した怪物のようで、形を変えながら、青藍の方へと向かってくる。
・・・巨大な捕食者の前に無防備に放り出された気分というのは、今の気分を言うのだろう。
青藍はどこか冷静にそんなことを思う。


「・・・お前は、道具だ。」
何処からかそんな声が聞こえてきて、青藍はあたりに視線を走らせる。
しかし、近くに居るのは、咲夜と、黒い靄の怪物だけ。
低い、媼の声。
その声に、聞き覚えはない。


「その程度のことが出来ないとは、情けない!!」
(「痛い・・・。蒼純様。銀嶺お爺様。たすけて。」)
「朽木家には、二度と戻れぬ。」
(「嫌だ。こんな所は、嫌だ。帰りたい。ここは、私の居場所じゃない。」)


「お前など、生まれてこなければよかったのだ。」
(「・・・何故、私を生かす。必要ないなら、殺せばいい。」)
「お前が、全てを奪った。」
(「私が自分から奪った訳ではない。」)


「お前の父は、生まれたばかりのお前を、殺そうとした。」
(「・・・。」)
「お前が生まれたせいで、あの子の人生は狂ってしまった!お前のせいで!!」
(「・・・。」)


「牢に繋いで置け!!逃がすな!!」
(「・・・何故、私は生きている。死にたい。あの場所に、朽木家に、帰ることが出来ないのならば。この心臓を抉れば、死ぬだろうか。この首を掻き切ることが出来れば、死ぬだろうか。死にたい。死にたい。死にたい・・・。誰か、私を殺せ・・・。」)


憎しみを含んだ媼の声。
徐々に力を失い、死にたいという声しか聞こえない少女の心の声。
『・・・っ!!』
その声の主に思い当たって、青藍は顔を歪める。


胸が、痛い。
心臓を抉られたような痛みが、青藍を襲った。
「こんな世界など、滅んでしまえ。」
温度のない少女の声が、呪詛を呟く。


・・・これは、母上の記憶だ。
媼の声は、きっと、漣のお婆様の声。
この靄は、母上の闇なのだ。
未だにこんなに深い闇を抱えているのだ。


きっと、誰にも話せずに。
たった一人で。
どうしよう。
僕では、救えない。


体が震えて、手足が思うように動かない。
その間も黒い靄は広がって、青藍の足もとまでやってくる。
場の支配権が、奪われていくのが解った。

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