色彩
■ 6.涼音の簪

橙晴と京楽が遠い目をしていた頃。
青藍は漣家の神殿を探していた。
刑軍の包囲網を掻い潜って漣家に入ったのはいいが、地下への通路が見つからないのである。
刑軍の調べはすでに終わっているため、中に入ってしまえば彼らと出会うことはなかった。


「一度、涼音様の所に行くしかないか・・・。」
青藍はそう呟いて滑るように廊下を走る。
鬼道で姿を隠しているため、使用人とすれ違っても気付かれることはない。
時間がない。
青藍は内心で呟く。


三日以内に母上を助け出す。
白哉とそう約束したのだ。
しかし、漣家から外に出るためにはまた刑軍の包囲網を掻い潜らなければならない。
それを考えると、あまり悠長にはしていられないのだった。
涼音の私室に向かった青藍は音を立てずにするりとそこに忍び込む。


「何者ですか?」
気配に気が付いたのか、涼音の鋭い声が室内に響く。
『勝手にお邪魔して申し訳ありません。』
その声に涼音は驚いたように振り向いた。


「青藍様!?どうやってここへ?」
『全てが終わってから説明いたします。今は時間がありませんから。』
「そうよね。咲夜様が大変な時ですもの。」


『えぇ。僕は今、母上を助け出すために動いています。それで、霊妃様のお力をお借りしたい。霊妃様が居られれば、十五夜様と連絡が取れます。十五夜様がこちらに来てくだされば、四十六室を黙らせることが出来る。それに、霊妃様ならば、母上がどんな状況にあるのかもわかるかもしれません。』


「解ったわ。すぐに神殿へ案内いたします。」
涼音はそう言って立ち上がろうとする。
『いえ。神殿へは僕一人で行きます。貴方はここに居てください。下手に動くと刑軍がそれを嗅ぎ付けて中に入ってくるやもしれません。』


「でも、男性には少し辛い場所ですわ。足を踏み入れることも出来るかどうか・・・。」
心配そうにする涼音に青藍は落ち着かせるように言った。
『僕は大丈夫です。どうやら、霊妃様の愛し子だそうですから、それに賭けてみます。それで、神殿への入り口は何処ですか?』


「この部屋を出て右に行くと、右手に響の間がございます。その部屋に入ると古い時計が。その文字盤をひっくり返すと鍵穴がございます。」
涼音はそう言うと己の頭から空色の玉が光る簪を抜く。
「こちらの簪を差し込んで、反時計回りに音が鳴るまでお回しください。」
そう言って差し出された簪を受け取ると青藍は頷いて静かに部屋を出たのだった。


これで十五夜様と連絡を取れば、最悪の場合は避けることが出来る。
後は、母上を助け出すだけだ。
青藍は廊下を進みながら内心でそう呟く。
目には目を、歯には歯を。
大きな権力には、大きな権力を。


十五夜様がこちらに来られれば、四十六室も簡単に意見は出来ないだろう。
むしろ、十五夜様の意見しか通らない。
四十六室は貴族の集まりだ。
彼等は身分というものを気にしすぎるほど気にする。


漣家は上流貴族であり、朽木家を含めた四大貴族よりも格下ではあるが、霊王の筆頭家臣となっている十五夜様は別格なのだ。
地位だけで言えば、彼は霊王の次に位が高いのだから。
まぁ、普段はちょっとアレな人だけれども。
そんなことを考えつつ、青藍は霊妃の元へ向かったのだった。

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