色彩
■ 4.茶羅と橙晴

その日の夕方。
当主会議を収めた茶羅は、変装をしてあちらこちらの貴族の邸の様子を伺っていた。
咲夜拘束の主犯の可能性がある家の邸に出入りする者たちを観察しているのだ。
その手にはどこから持ってきたのか、貴族の荷物が一日にどれ程、どんなものが運び込まれているかなど、詳細な記録が書き込まれた書物がある。


「ここもいつもと変わらないわね・・・。」
そんなことを呟いて、茶羅は次の邸へと向かった。
荷物の流れがいつもと違う邸がないかどうか調べているのだ。
これから何かをしようというのですもの、必ず、どこかしら変化があるはずだわ。


茶羅はそう考えてとりあえず四十六室の者たちと関係のある貴族の邸を廻っているのだっ
た。
次の邸の観察をしていると、その邸の門を見上げる知った顔があった。
その姿を見た茶羅は駈けだす。


「きゃ。」
そう言って茶羅はわざとその人物の前で転んだ。
「あ?大丈夫ですか?御嬢さん。」
男はそういって片膝をつく。
「足を挫いてしまったみたい・・・。肩を貸してくださるかしら?」


「あ?足なんか挫いてない・・・。うお!?」
男が言い切る前に茶羅は無理やり男の方に腕を回す。
「話を合わせてくださるかしら?草薙師走さん?」
そして小さく男の耳元で囁いた。


「な!?」
名を呼ばれた師走は驚きの声を上げる。
しかし茶羅は構わず、その体制のまま師走に話しかけた。
「騒がないで。私は朽木茶羅。兄様から貴方の話は聞いていますわ。ここがその邸なのね?」


「あ、あぁ。」
「そう。ではこれを持っていきなさい。そんな手ぶらで、無事に出てこられると思っているの?」
茶羅は懐から短刀を取り出して師走の懐にいれる。
「いや、一応しびれ薬とかは用意してあるぞ。」


「そう。でも縛られたりしたらそれでは逃げられないわ。これがあれば、毒でも塗りこんで相手を斬ることも出来る。」
茶羅はしれっと恐ろしいことを言う。
「あはは。怖い御嬢さんだ。」
そう言いつつも師走はありがたくそれを受け取ったのだった。


咲夜が拘束されて二日目の昼ごろ。
橙晴はひっそりと朽木家を抜け出していた。
朽木家の警備は清家に任せてある。
「全く、女性死神協会の方々には感謝しなければなりませんね・・・。」
橙晴は簡単に護廷隊に侵入できたことに苦笑する。


女性死神協会の隠し部屋が朽木邸に作られていたことが幸いし、彼女たちしか知らない隠し通路から直接護廷隊に入ることが出来たのである。
様子を見に来た夜一が橙晴に道を教えたのだ。
橙晴はその辺の八番隊隊士から拝借した死覇装を着て、さも八番隊からの報告だという顔をして一番隊に入った。
そして京楽に面会を申し込む。


「!?」
そんな橙晴の姿を見た京楽は驚きに目を丸くした。
橙晴はそれをみてにこりと微笑む。
「京楽隊長にご報告があります。」
「・・・君たち、下がっていいよ。」
そういって京楽は警備にあたっている隊士たちを下がらせた。


「どうやってここまで来たの・・・。」
隊士が下がったことを確認した京楽は力が抜けたように言う。
「それは秘密です。念のために八番隊の方から死覇装を拝借したので、その辺で寝ている隊士を見つけても責めないでやってくださいね。」


「あはは。流石だね・・・。解ったよ。それで?」
「朽木家の情報網からの報告です。母上はどうやら、四十六室内に監禁されているようです。荷物を抱えた者が入って行く様子を見たと。でも僕ではそこには入れない。」
「それで僕の所に来たわけね。」


「はい。四十六室に探りを入れることは可能ですか?」
「ま、やってみるよ。僕ら、咲ちゃんの同期だから警戒されるだろうけど。」
京楽は苦笑しつつ言った。


「春水さんたちが警戒されているお蔭で僕ら兄弟は自由に動けていますけどね。全く、僕らになんの力もないという判断なのでしょうが、僕らのことを見縊りすぎです。朽木の者がその程度であるはずがない。それが分からないなんて、四十六室も大したことはありませんね。」
橙晴はこともなげに言った。


「橙晴も辛辣だよねぇ。」
「地下に潜ってばかりで情報だけ手に入れて、現実を見ない。そんな人たちが賢者と呼ばれ、裁判官が裁判をする。尸魂界の安寧のためと言いながら、自らの平穏を一番に考える。呆れを通り越して言葉も出ません。」
「あはは。否定はしないよ。」

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