色彩
■ 21.実は遠縁

『・・・ふぅ。疲れた。』
あの後もみくちゃにされた青藍は、浮竹と京楽のもとに逃げてきた。
二人が談笑していると、隊士は勿論、副隊長を始めとした席官たちでも話しかけるのは遠慮する。
青藍はそれを解った上で二人の元にやってきたのである。
ちなみに取材班の撮影は止めてもらっている。


「はは。いいものを見せてもらったぞ、青藍。」
溜め息を吐いた青藍に浮竹は笑いながら言った。
「そうそう。僕、びっくりしちゃったよ。いつもより凄かったもの。」
京楽は青藍に盃を渡しながら言う。


『ありがとうございます。でも、あれは弥彦様の笛の音がそうさせてくれたのですよ。僕はそれに導かれて舞っただけです。体が勝手に動きました。・・・あの人一体何者なんでしょうね?』
青藍は不思議そうに首を傾げる。


「さぁて。僕は天音殿の夫ということしか知らなかったよ。まさか、周防家の方だとは。」
京楽はそう言って酒を口に含む。
『僕、あんな笛、初めて聞きました。周防の笛を聞いたことはありましたが、弥彦様は別格ですね。』
「ははは。あの天音殿の心を射止めた方だ。並みの人物ではないだろう。」
「まぁ、それはお互い様でしょ。天音殿のお願いで家を捨ててしまうお人だからねぇ。」


『確かに。でも、よく考えたら、瑛二殿もそうですね。佳乃さんと一緒になるために家を出たのですから。』
「周防家の次男坊は愛のためなら家を離れることも厭わないのか。」
『ということは・・・蓮もそうなのかなぁ。』
「あはは。その可能性はあるかもねぇ。」


「青藍、叔母上たちが帰られるぞ。」
そんな話をしていると、咲夜がそう声を掛けてきた。
後ろには天音と弥彦の姿もある。
『お二人とも、今日は楽しんでいただけましたか?』


「えぇ。いいものを見せて頂きました。今度、漣家でも舞っていただきたいものです。」
「そうだね。その時は私も家に帰ろう。」
「そうでなくても帰ってきてくださいよ。」
弥彦の言葉に天音は呆れたように言った。


『ふふふ。お二人とも仲がよろしいようで。弥彦様、よろしければ、瑛二殿の息子である蓮を紹介したいのですが。』
「ほう。それは興味深い。あの瑛二君の息子か。うわさは聞いているよ。」
『えぇ。・・・蓮!ちょっとこっちに来て!』
青藍の声に応えて、蓮がこちらにやってくる。


「どうしたの?青藍。」
『紹介するよ。天音様のことは知っているよね?』
「うん。・・・その節は大変お世話になりました。」
蓮はそう言って一礼する。


「ふふ。構いませんよ。今だっていつでもいらしてくださいな。」
『それで、こちらは天音様の夫の弥彦様。』
「やぁ、初めまして。」
「お初にお目にかかります、弥彦様。南雲蓮と申します。」
『弥彦様は、実は主計殿の弟君なんだ。つまり、蓮の大叔父さまだね。』


「えぇ!?そうなのですか?では、先ほどの笛は周防家の?」
蓮は目を丸くする。
「あぁ。瑛二君もあのくらい吹くことが出来るのではないかな。血の繋がりはないけど、君と青藍君は親戚なんだよ。それを知らずに二人が仲良くなるなんて、縁とは不思議なものだねぇ。」


『ふふ。そうですねぇ。僕も知った時は驚きました。』
「縁は異なもの味なもの、ってね。」
弥彦はそう言って微笑む。
それを見て、蓮は何かに気付いたように首を傾げる。


「あれ?じゃあ、僕が漣家の邸に入れてもらうことが出来たのは、その縁のお蔭ってことですか?漣家は余程のことでなければ、縁のある者しか邸にいれることはないと、父から聞いて不思議に思っていたんです。」
「そうですよ。もちろん、咲夜殿の頼みですからそう簡単には断ることは出来ませんが、弥彦の縁者でなければ邸にはいれませんでした。」
天音がふわりと微笑む。


「そうなのですか。父はこのことを知っているのでしょうか?」
「たぶん知らないと思うよ。私が周防家を出たのは咲夜殿が姿を消してからだから。瑛二君はそれより前に周防を離れたからね。咲夜殿に後押しされて。」
弥彦はそう言って咲夜を見る。


「あはは。瑛二殿に頼まれたのですよ。私はその手伝いをしたまでです。」
「青藍も知っているなら教えてくれればよかったのに・・・。」
蓮は面白くなさそうに言う。
『あは。隠していたつもりはなかったんだけどね。話すタイミングもなかったから。まぁ、知ったからといって、僕らの関係が変わる訳じゃないし。』
「確かにそうだけどね・・・。教えて欲しかった・・・。」


「ははは。瑛二君もそんな拗ね方をする子だったなぁ。まぁ、そういうことで、よろしく頼むよ。私はあちらこちらに行っているから顔を合わせることは少ないだろうけど。」
「はい!こちらこそ、よろしくお願いいたします。」
「ふふ。じゃあ、私たちは帰るよ。何かあればこちらから文を送るよ。」

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