色彩
■ 11.手が届く場所

「で、その子どもは何だ?」
咲夜は興味深そうに一弥を見る。
「俺の甥っ子の一弥だ。」
「まだ、そんなに小さいのが居るのか。」
「ははは。俺は兄弟が多いからな。俺を探しに一人で護廷隊まで来て、迷子になっていたところを青藍が拾ってきてくれたんだ。」


「そうか。一人で探しに来たのか。偉いなぁ。」
咲夜はそう言って一弥の頭を撫でようと手を伸ばす。
しかし、一弥はそれに怯えたように身を震わせた。
咲夜はそれを見て、伸ばした手を引っ込めた。
そして、少し傷ついたような表情を見せる。
それを見た浮竹は困ったような、寂しいような、申し訳ないような、そんな瞳を咲夜に向けた。


「やはり、駄目か・・・。」
そんな咲夜の呟きは隣に居た青藍の耳だけに届いた。
青藍はそんな咲夜の手を思わず握った。
「青藍?」
咲夜は突然繋がれた手に不思議そうに青藍を見つめる。


『母上、もうお昼の時間ですよ。お腹、空きませんか?』
「あぁ、そうだな。」
『じゃあ、昼休憩にしましょうか。ルキア姉さまも行きましょうよ。朽木家にお弁当を頼むには遅すぎるので、父上も誘って美味しいものを奢ってもらいましょう。ね?』
青藍はもう一方の手でルキアの手を握った。


「しかし、青藍・・・。」
ルキアは困ったように浮竹を見る。
「ははは。行って来い、朽木。」
ルキアの視線を受けて、浮竹はそう言って微笑む。


「・・・では、お言葉に甘えて。」
「何なら二人とも、午後は非番でもいいぞ。」
「隊長、それは流石に遠慮します。」
ルキアは苦笑していった。
『ふふふ。じゃあ、行きましょうか。』


「待て、青藍。兄様には言ってあるのか?」
『いいえ?でも、こっちには母上と姉さまが居ますからね。お二人がお願いすれば、父上も頷いてくれるでしょう。今日は急ぎの仕事もないはずですし。』
「そうだな。可愛いルキアの頼みとあらば、白哉は断るまい。」
咲夜はそう言って微笑んだ。
それを見た青藍は二人を引っ張るようにして十三番隊を出て行ったのだった。


「・・・気を遣わせてしまったな。」
青藍を見送った浮竹はそう呟いた。
漣のあんな顔を見るのは初めてではない。
だが、何度見ても胸に鈍い痛みが走る。
子どもが怯える理由を知っているからこそ、漣の心情を思うと寂しいような、切ないような。


・・・俺だって、漣を恐れているのに何を考えているのだか。
そう思って、浮竹は内心苦笑した。
「青藍って、本当によく人を見ていますよね。」
いつの間にか隣に来ていたキリトがそう言った。
「はは。そうだな。」


「隊長は、寂しいのですね。」
「え?」
静かにそう言ったキリトに、浮竹は首を傾げる。


「咲夜さんの傷を癒すことが出来ない自分が悔しい。その傷を癒すのは青藍や朽木隊長たちで、傷ついた咲夜さんは自分の所には来ない。それが、大切なものを取られたようで、いつもそこにあるものが、突然なくなったようで、寂しい・・・。」
キリトの言葉に浮竹は目を丸くする。
思いを言い当てられたこともだが、キリトがいつもより大人びて見えるからだ。


「そんなに心配しなくても、隊長は咲夜さんの傍を歩いているように見えますけどね。咲夜さんだって、隊長がそばに居ることが当たり前だと思っているようですし。咲夜さんの隣を歩いているのは、咲夜さんの手を引くのは、朽木隊長なのでしょうけど、きっと、誰が欠けても咲夜さんはあんな風に笑うことはなかった・・・。咲夜さんの手が届くところに、隊長は居ます。」
キリトはそう言って浮竹を見る。


「ということは・・・隊長からも咲夜さんに手が届きますね。寂しいことなんて何もありませんよ。」
そう言ってキリトは微笑んだ。
・・・子どもだと思っていた一隊士に諭されるとは。
俺もまだまだだなぁ。
浮竹は内心苦笑した。
「そうだな。お前の言うとおりだよ、キリト。」

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