色彩
■ 9.おじちゃんの正体

「ふうん。どんな目に遭っているのかしら?」
突然聞こえてきた女の声に、青藍は動きを止める。
そして、ゆっくりと声がした方を振り向いた。
「うふふ。青藍様、お久しゅうございますね。」


にっこり。
そんな擬音が付きそうな微笑みで、彼女は青藍を見る。
彼女は牡丹。
青藍が菓子を届けている楼閣の楼主である。
『あはは・・・。牡丹さん。お久しぶりです・・・。』


「・・・青藍。」
彼女は笑みを消して青藍の名を呼ぶ。
『はい・・・?』
「それ以上話したら刺すわよ?それとも・・・あることないこと噂を流されたいのかしら?」


『な!?いやいやいや、話しません。誓って。絶対に。』
青藍は思い切り首を横に振る。
・・・言えない。
牡丹さんが実は男だなんて。
そして、どんな姐さんたちを差し向けても全く相手にしない父上が牡丹さんは気に入らないらしい。


・・・父上が全く靡かないから、僕が愚痴を聞かされるんだよなぁ。
毎回毎回、どんな人なのか見てみたいから母上を連れて来いと言われて困っているのだ。
そんなことをしたら、僕が父上に殺される。
態度の悪い貴族とか、その他のことに対する愚痴もあるのだけれど。


「ふふふ。それならいいわ。じゃあ、またね、青藍様。琥珀庵のお菓子、楽しみにしているわ。」
『あはは・・・。お気をつけてお帰りください・・・。』
そんな青藍の様子に満足したのか、牡丹は微笑みを見せてからさっさと隊舎を出て行った。


『・・・はぁ。』
牡丹の姿が見えなくなると、青藍は脱力した。
「青藍がこんなに気圧されるなんて・・・。あの人、一体何者?」
『あはは。あの人は、さっき言っていた楼閣の楼主様だよ。』
疲れ切ったように青藍は言った。


「え?楼主様が隊長に何の用だったの?」
「まさか、あの隊長が楼閣に行っているのか・・・?」
「浮竹隊長も男だったのね・・・。」
「こんな噂が広まったら、隊長、さらにモテてしまいますよね・・・。」
隊士たちは口々にあることないことを言い始める。


「やぁ、皆。・・・こんなところに集まってどうしたんだ?」
すると浮竹が執務室に顔を出した。
「「「「隊長!お疲れ様です。」」」」
「あぁ、お疲れ。」
浮竹はそう言って微笑んだ。


「おじちゃん!」
そんな浮竹を見て、離れて隊士たちと遊んでいた少年が浮竹に駆け寄る。
「お?一弥?何故こんなところに・・・。」
駆け寄った一弥を抱き上げながら浮竹は首を傾げる。
「おじちゃんをさがしにきたの。でも、みつからなくて。そしたら、せーらんがつれてきてくれた。」


『一人で泣きそうになっているところを発見したので。』
「そうかそうか。俺を探しに来たのか。・・・でも、これからは一人で来るなよ?誰かと一緒に来なさい。いいね?」
「うん!わかった!」
「よし。いいこだ。」


「隊長、その子は?」
「あぁ、甥っ子だ。一弥という。」
「なぁんだ。隊長の子でもなかったか。」
「本当に隊長は期待を裏切ってくれるわ・・・。」
隊士たちは浮竹の返答に、つまらなさそうに言う。


『皆さん、言いたい放題ですね・・・。』
それを見て青藍は苦笑した。
「ははは。一弥は俺の子みたいなもんだぞ。」
浮竹はそう言って朗らかに笑う。
『その子のお蔭で、僕は大変な目に遭いました・・・。』
そんな浮竹の様子に、青藍はため息を吐きながら言う。


「ん?一弥が何かしたのか?」
『そうじゃありませんけど・・・。僕の隠し子だとか言われて大変だったんですからね?』
「ははは。それは災難だったな。」
『笑い事じゃありませんよ・・・。あらぬ疑いまで掛けられて大変だったんですから。』
「それはすまんな。うちの者が迷惑をかけた。」


『まぁ、父上の面白い姿を見ることが出来たのでいいですけどね・・・。』
「白哉に何かしたのか?」
『えぇ。「僕の子です」って冗談で父上に言ってみたのですよ。思った以上に父上が慌てて面白かったです。』


「お前、漣の子だよな・・・。あまり、白哉で遊び過ぎるなよ。」
『ふふふ。解っていますよ。父上を怒らせたら怖いですからね。』
「ははは。俺にとばっちりが来るからな。」
『あは。それはすみません。』

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