色彩
■ 5.怖いお出迎え

「・・・う、いてぇ。」
食事を終えて二人で話をしていると、うめき声を上げながら男が目を覚ます。
「やぁ。お目覚めのようだな。」
『そのようですね。気分はいかがですか?』
咲夜と青藍は微笑みながら言った。
その瞳は決して微笑んではいないのだが。


「あ・・・あぁ。最悪だ。」
男は動けないことに気が付いて顔を青くする。
『そうですか。それはよかったですね。・・・草薙師走さん。』
「!!!???」
突然名を呼ばれた男は驚きに言葉を無くす。


「睦月がお怒りだ。心の準備をしておくんだな。」
「・・・。」
咲夜の言葉に師走はさらに顔を青くした。
「なるほど。心当たりはあるらしいな。」


『まぁ、その話は後でもいいでしょう。草薙師走さん、貴方と一緒に居た二人の男について教えてください。彼らは何者です?』
「・・・どこかの高利貸しの下っ端だ。」
『何故そんな人と行動を共にしているのですか・・・。』
青藍は呆れたように言った。


「こちらで行き倒れているところを拾われただけだ。」
『ふふふ。ここが現世で良かったですね。あちらならば僕が貴方を潰しているところでした。』
青藍は笑顔で言い放つ。
「ひっ。」
そんな青藍に師走は悲鳴を上げた。


「こらこら、青藍。脅しは良くないぞ。怯えているじゃないか。」
その様子を見ていた咲夜は面白がるように言った。
『あはは。すみません。』
「・・・あんたら、本当に何者だ?何故睦月を知っている?」
師走は怪訝そうに言う。


『ふふふ。睦月は僕らの専属医ですよ。』
「は?彼奴が専属医?そんな性分じゃないだろう、あいつは。」
『まぁ、それはそうですね。専属医と言っても僕らだけを診ているわけではありませんし。というか、最近は医者と患者というよりも、呑み仲間に近いですし。』
「そうだな。それから甘党仲間。あれは私たちには敬語を使わないしな。」


『猫を被っている時は敬語ですよ?』
「そう言えばそうだったな。」
「・・・どうやら、本当に睦月を知っているようだな。」
二人の様子を見た師走は諦めたように言った。


『やっぱり僕らの世界はこちらですね。』
穿界門から出た青藍はそう言った。
師走を引きずったまま現世を歩くわけにはいかないので早々に帰ってきたのだ。
「あぁ。こちらの方が楽だな。」


「・・・いやいや、お二人さん。この状況で何一息ついているんですか。俺にも一息吐かせてくださいよ。早くこれを外してもらえませんかね?」
二人の様子に師走は不満げに言う。
『睦月が良いと言ったらね。』
「あはは。そうだな。逃げられても困る。睦月の機嫌も悪くなるしな。」


「あんたら、睦月の主なんだろ?そんなのどうとでもなるだろ。さっき俺を脅したみたいに脅せばいいじゃねぇか。」
『ふふ。僕らは睦月の主ではないよ。僕らの間に上下関係はない。まぁ、睦月は父上には頭が上がらないのだけれど。』


「そうだなぁ。白哉だけには逆らわないもの。」
「何だよそれ・・・。あの睦月が逆らわないとか、どんな父上だよ・・・。」
そんな会話をしながら、二人は師走をずるずると引きずって邸へ向かう。
すると、玄関の前に睦月の姿があった。


「やぁ、睦月。ただいま。」
「お帰りなさい。」
睦月は微笑みながらそういった。
『あはは。ただいま。お出迎えなんて珍しいね。・・・睦月、顔が怖いよ。』


「そうか?」
『うん。表情と瞳が一致していないよ。』
「・・・その馬鹿をよこせ。」
青藍に指摘されて微笑むのをやめた睦月は、引きずられた師走を冷ややかな目で見つめて言った。


「睦月、あまりいじめるなよ?」
師走を引き渡しながら咲夜は言った。
「俺、ご当主よりは優しいぞ。」
『あはは。父上が聞いたら怒られるよ?』
「事実だろうが。」
『まぁ、否定はしないけど。母上、いつもいじめられていますものね。』
「・・・五月蝿いぞ。」


「で?お前は今まで何をしていたんだ?連絡もよこさず、何処にいるかも知らせず。仕事を放りだして。なんで俺がお前の借金を返さなきゃならないんだ?ん?答えてみろ。」
睦月は怒りを滲ませながら言った。
「あれ、睦月が返してくれたの?そりゃあ良かった。」
師走はそう言ってへらりと笑う。


「いいわけあるか!この馬鹿が!!!」
そんな師走に睦月は声を荒げた。
「そんなに怒るなよ・・・。」
「お前が怒らせているんだろうが!この馬鹿兄貴!!」

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