色彩
■ 2.お着替え

「何を着てもお似合いですね!」
適当に店に入った二人は、店員に進められるがままに試着していた。
女性店員は興奮したように言った。
「そうか?じゃあ、君が一番似合うと思うものを買おう。一式揃えてくれ。」
咲夜はそう言って微笑みかける。
それをみた店員は顔を真っ赤にしつつもいそいそと服を選び始めた。


『咲夜さんは女性にも好かれるのですね・・・。彼女、咲夜さんに好意を寄せているのでは?』
青藍は呆れたように言った。
「そうか?私では選べないから、選んでもらおうと思っただけなのだがなぁ。」
『相変わらず無自覚なのですね・・・。』


「それにしても、ばれないものだな。」
『えぇ。誰も咲夜さんが女性だなんて気が付いていませんね。』
「そのようだな。何だか楽しくなってきたぞ。」
咲夜はそう言って悪戯に微笑む。


『あはは。まぁ、ばれないに越したことはありません。よからぬ輩が寄ってくる可能性も低くなりますからね。』
「その辺の男に私が負けるものか。」
『それはそうですけどね・・・。父上の心配も解ってくださいよ。』


「それは解っている。出かける時、白哉はいつも私の盾になっているからな。」
『本当は誰にも見せたくないのでしょう。なので、度が過ぎると閉じ込められてしまうかもしれませんよ?』
青藍もまた、悪戯に微笑んだ。
「ははは。気を付けよう。」


「お客様、こちらなど如何でしょうか?」
そんな話をしていると、店員が一式を揃えて話しかけてきた。
ワインレッドのニット。
細身の脱色されたジーンズ。
足元はグレーのブーツ。
同じくグレーのストール。
その他、ベルトやシルバーアクセサリーもある。


「ふむ。いい色だな。着てみよう。」
咲夜はそう言うと試着室へと入って行く。
『あぁ、それは僕が。』
店員がその手伝いをしようと続くのを青藍はやんわりと止めた。


「ですが、お客様の手を煩わせるわけには・・・。」
『構わないよ。それより、僕の分もお願いしていいかな?』
青藍の微笑みに、店員は操られたように頷く。
そしてまた、いそいそと服を選び始めた。


全く、母上を守るのは大変だ。
試着室の前で青藍は内心呟く。
それにしても、先ほどから店員のみならず店内のあちらこちらから視線を感じる。
「あんなに綺麗な顔初めて見た。」
「ねぇ、話しかけてみない?」
「彼女とか、居るのかな?」
「あの二人、何者なのかな?っていうか、どういう関係?」


そんな囁きまで聞こえてくる。
それに青藍は大きくため息を吐いた。
やはり、目立つのだ。
僕も、母上も。


青藍はいい加減自分の容姿が優れていることを自覚していた。
別に不満はないんだけれどね・・・。
あの両親に似ているのだから、目立つのは仕方がない。
青藍はそう諦めることにしたのだった。


数分後。
咲夜が試着室から出てきた。
「どうだ?似合うか?」
ブーツを履いて咲夜は青藍に問うた。


『えぇ。お似合いです。』
青藍の言葉に咲夜は得意げに微笑む。
「次は青藍だな。好きなものを選ぶといい。」
『ふふ。すでに選んでもらっていますよ。こちらの服はよく解らないので。』
「そうか。私も着物なら解るのだがなぁ。洋服はなかなか難しくてな。」


『そうですねぇ。父上はいつもどうしているのです?』
「白哉は自分で一つ選んでその他のものはそれに合わせて選んでもらっている。だからこんなに何回も試着したりはしないな。」
『なるほど。僕も次からはそうします。』


「お客様、これなどいかがでしょうか?」
青藍の服を選び終えたらしい店員が近づいてくる。
モスグリーンのシャツ。
オフホワイトのゆったりめなカーディガン。
細身の黒のボトム。
黒のブーツ。
その他、ベルトにアクセサリー。
「うん。ちょっと試着してきます。」
青藍はそういって試着室へと入って行く。


数分後。
試着室から出てきた青藍に多くの視線が集まった。
「ふふ。流石だな。」
咲夜は青藍を見てそう呟く。
『似合いますか?』
「あぁ。格好いいぞ、青藍。」


『それは良かったです。』
「では、これを貰おう。会計は一緒でいい。」
そう言って咲夜はカードを差し出す。
所謂ブラックカードだ。
そんな咲夜に注目がさらに集まる。


『そんな。僕は自分で払いますよ。』
「遠慮するな。これは頑張っている君へのご褒美だ。私も白哉も君にはお世話になっているからな。」
『・・・甘やかさないでくださいよ。』
青藍は呆れたように言った。


「ふふふ。このくらいいいだろう。私の欲しいものは全部白哉が買ってくれるのでな。このカードの出番がなかなかないのだ。」
咲夜は不満げである。
『そう言う不満は父上に言ってくださいよ・・・。』
「だめか・・・?」
咲夜はそう言って青藍を見つめてくる。


『・・・わかりました。お言葉に甘えます。ありがとうございます。』
根負けした青藍は渋々頷いてそう言った。
「よし。」
そんな青藍に咲夜は嬉しそうに微笑んだ。

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