色彩
■ 37.一番大切なこと

「・・・そう。お母上は大変な思いをしたのね。」
『そうだね。だから父上でなければ駄目だったんだ。母上を愛することも、受け止めることも、守ることもできるのは父上だけだった。僕の祖父や曾祖父でも出来なかった。十四郎殿や春水殿にもできなかった。彼らは母上を畏れたから。父上が居なければ、母上はさっきのように笑うことも出来なかった。誰かを愛することも、子どもを産むこともなかっただろうと、言っていた。』
青藍は苦笑していった。


「浮竹隊長が笑う咲夜さんを泣きそうな目で見つめるのはそんな理由があるから?」
キリトが言う。
『よく見ているね、キリト。十四郎殿が母上と出会った時、つまり、霊術院に入学したときだけれど。母上には表情も感情も見えなくて、ただの人形のようだったって。当時母上はいろいろあって心を閉じていた。なぜそうなったのか此処で話すのはやめておくけれど。痛みすら感じることが出来なかったって。』


「痛みを感じることが出来ない・・・?それは普通の状態じゃないわ。痛みを感じるのは生きるためだもの。痛みを感じるから危険なものには近寄らないのよ?体ってそういう風に出来ているものなのよ?」


『・・・当時の母上は本当に人形だったのさ。心を閉ざして、生きているけれど、死んでいる状態だった。感情や痛みを感じることが出来るようになったのは、十四郎殿、春水殿、それから山本の爺のお蔭だ。もちろん、僕の祖父や曾祖父の力もあるのだけれど。』
「想像できないね。咲夜さん、いつも楽しそうに笑っているもの。朽木隊長や青藍たちのことが大好きだって伝わってくるもの。」


『うん。それは父上のお蔭だよ。母上は恐れられる者だと言ったよね?十四郎殿たちでさえ、母上が恐ろしいと感じることがあるそうだ。でも父上だけは母上を恐れなかった。母上が子供に近付くと、子どもは怯えるんだ。でも、父上は。赤子の時から母上を恐れなかった。むしろ、母上が近くに居る方が安心している風だったって。僕が生まれるまで、母上に怯えなかったのは父上だけだ。』


「そんなことがあったなら、朽木隊長の過保護っぷりも納得だな。」
「そうね。」
『ふふ。だからあの二人はもう離れられないのではないかな。』
「さっきのを見ればそれは良く解る。」
「ラブラブだったもの。」
『ふふ。だから若いのかもね。』
「確かにあの美貌の秘訣は気になるわ。」


『あはは。漣家の皆さんは皆実年齢より若く見えるよ。現漣家当主も大変美しい方だ。母上の大叔父なんかは総隊長と同じくらい生きているのに、十四郎殿たちより若く見えるんだから。あの人は本当に詐欺だと思う。』
「漣家って一体どういうお家なのよ・・・。」
笑って言う青藍に雪乃は呆れたように言った。


『ふふ。僕が話せるのはこの位だよ。さて、余計な話をしてしまったね。でも、知って置いて欲しかった。死神の敵は虚だけじゃないということを。皆、気を付けてね。死神が守るべきものはたくさんあるけれど、まずは自分を守る術を身に着けること。それが一番大切だよ。』
「なんだか、説得力があるわねぇ。」


『そう?それから、貴族の子たちに言っておくけれど、護廷隊は貴族だからと言って甘やかしてくれるところではないよ。仕事の厳しさは、貴族出身でも流魂街出身でも同じだよ。死神になるならば自分は貴族だから偉い、なんていう考えは捨てた方がいい。僕も、父上も、他の隊長格や席官たちも、貴族だからと特別扱いはしない。だから、甘く見ていると、死ぬよ?』
青藍はそう言って笑う。
そんな青藍に、会場は凍りついた。

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