色彩
■ 36.母の話

『・・・母上は恐れられる者だから。十四郎殿や春水殿も舞っている母上には近づけない。恐ろしいというんだ。ま、僕も父上も橙晴たちもそうは感じないのだけれど。』
「咲夜さんってよく解らない人だよな。」
「そうだね。でも、青藍のお母さんって言われると違和感ないし。」
「あはは。それは青藍だからね。」


「漣家の巫女というのは謎で一杯なのよ。漣家はほとんど表舞台に出てこないから。」
『ふふ。別に巫女という以外では他の貴族と違いはないよ。母上だってそうでしょう?』
「確かにそうだな。ま、色々と規格外だとは思うけど。」
「うん。僕もそう思う。」


「でもあのくらいじゃないと朽木隊長の奥方なんて出来ないのじゃなかしら。」
『ふふ。それは多分逆だよ。』
「どういうこと?」
青藍の言葉に皆が首を傾げる。


『父上くらい地位も権力もあって、実力もあって。そう言う大きな人でなければ、母上の夫なんて務まらない。母上を守ることなんてできないからね。』
「守る?あんなに強いのに?」
キリトは不思議そうに問う。


『うん。さっき言ったように母上の力は特異なものだから。それを狙う人たちがいる。もちろん、漣家とつながりを作るためでもあるのだろうけど。母上は昔、追われていたのさ。多分、それは今もなのだろうけど。母上の力を恐れた人たちが母上をどうにかしようと企んでいるのではないかな。それから守ることの出来る人でなければならなかった。』
青藍はそう言って目を伏せる。


咲夜の歩んできた道を思い出して。
初めて咲夜の話を聞いた時、青藍は泣いた。
「朽木家程の力がなければ守れない追っ手なんてあるの?」
『あるだろう?隊長格でさえ、勝手に発言することすら認められない。そういう機関がさ。』


「まさか・・・。」
思い当たることがあるのか、皆が目を見開いた。
『ふふ。皆も解ったと思うけど、その名を出すのは憚られるからね。「ある機関」とだけ言っておくよ。』


「咲夜さん、何かしたのか?」
侑李が恐る恐る聞いた。
『まさか。ただ、母上の力が強大過ぎるから。それを手に入れようと思ったのだろうね。それで、それを断った母上はその「ある機関」から百年以上追われ続けた。だから母上は今、十三番隊の隊士なんてやっているのさ。』


「そう言えば・・・咲夜さんって十番隊の副隊長だったって。」
『そうだよ。でもある事件を機に、追っ手から逃がれるためにすべてを捨てて逃げた。副隊長という地位も、漣家当主という地位も。よりどころである朽木家との関わりも全て。』


「・・・百年以上も?」
『そうだよ。父上にも、十四郎殿にも、春水殿にも、山本の爺にも誰にも助けを求めずに。その間、母上は死んだことになっていた。ほとんどの死神は母上が死んだと思っていたらしい。』


「じゃあ・・・何故今ここに居ることが出来るの?」
『「ある機関」が全滅したことがあるだろう?教本に載るくらい大きなことがあっただろう?』
「・・・そうか。あれは確か朽木副隊長が中心人物だったね。」


『うん。母上は、自分を追っていた「ある機関」が全滅したことを知って再び死神に戻った。名前を変えて。ある目的のために。そして・・・色々なものを守るために、母上は自分の斬魄刀を犠牲にして、失った。それで漸く「ある機関」は母上を追うのを止めた。彼らが欲しかったのは母上の斬魄刀の能力だから。』


「斬魄刀の能力?そんな特異なものだったのか?」
『・・・森羅万象を司る。そういう斬魄刀だったらしい。未来を視ることも過去を書き換えることも、何でもできた。世の理そのもののような斬魄刀。そして、それは漣家の巫女にずっと受け継がれてきたものだ。権力者なら喉から手が出るほど欲しいと思わない?』


「そうね。夢のような能力だもの。」
『ただ、力が強すぎてね。斬魄刀が暴走した。だから、母上は自らの斬魄刀を破壊した。そうしなければ、世界が均衡を保てなくなるから。』
自らの父親とともに自らの斬魄刀を葬ったのだ。
どれ程、苦しかっただろう。
悲しかっただろう。


『斬魄刀をなくしても母上は強いから、たぶん今も「ある機関」の監視はあるのだと思う。ま、向こうは簡単に手出し出来ないけれど。朽木家の全てで母上を守っているからね。』
今のところは、だけれど。
青藍は内心でそんな呟きを付け足す。

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