色彩
■ 23.隊主室に避難

「三席―!!」
翌日、青藍が執務室へ入ると、昨日の隊士が青藍の元へ駆け寄ってきた。
『おはよう。元気そうだね。』
「おはようございます。三席のお蔭です。ありがとうございました。」
彼はそう言って深々と頭を下げた。
『僕は何もしていないよ。頭を上げてよ。』


「いいえ!三席は彼奴のために舞いを舞ってくださったのでしょう?」
隊士は涙ぐみながら言った。
・・・なぜ彼がそれを知っているのか。
『・・・どこでそれを?』
「え?噂になっていますよ?昨日、三席が鎮魂の舞を舞っていたと。」
『うん。それはそうなんだけどね・・・。』


一体誰に見られていたのだろう。
あの場所には誰も居なかったはず。
青藍に気取られずに近寄ることが出来るものは限られる。
そしてさらに、音もなく舞っていた自分を見て、鎮魂の舞だと解る人。


つまり、父上か母上だ。
いや、両方か?
・・・黙って見ているなんて酷い。
「三席?どうしました?」
考え込んだような青藍に隊士は声を掛ける。


『いや、まぁ、その位で君が元気になったのなら良かったよ。今日はちゃんと仕事が出来るね?』
「はい!先ほど朽木隊長には昨日の無礼を謝罪しましたし。三席の言うとおり、謝る必要はないとおっしゃっていました。」
『ふふ。そうか。それは良かった。では、今日も一日頑張ろう。』
「はい!」


『失礼いたしまーす。』
そんな間延びした声で、青藍は白哉の元へ顔を出した。
「青藍。どうした?」
その珍しい様子に白哉は書類から顔を上げた。
『どうしたじゃありません。昨日、僕の舞を見ていましたね?』
「舞?」


『・・・惚けないでください。昨日、見ていたのでしょう?母上と一緒に。僕が舞っていたと噂になっています。』
青藍はそう言って拗ねたような表情をする。
『そのせいで女性隊士たちに舞を教えて欲しいだのと、追いかけまわされました。』
そう言ってだらりと長椅子に腰掛ける。
どうやら逃げてきたらしい。
白哉は内心苦笑した。


「それは大変だったな。」
『・・・誰のせいですか。』
青藍はじとりと白哉を見つめる。
「確かに昨日そなたの舞を見たが、私は何も言っていないぞ。」


『どうせ母上でしょう。解っていますよ。全く、何でこうなるのかな・・・。』
青藍はそう言って唇を尖らせた。
「そう拗ねるな。良い舞だった。六番隊の隊長として、礼を言う。」
そんな姿に白哉は思わず苦笑する。
まだまだ子供だ、と思いながら。


『何を笑っているのですか。・・・僕は疲れました。休憩です。半刻ほど寝ます。時間になったら起こしてください。今日はその辺で昼寝も出来ないでしょうし。』
青藍はごろりと長椅子に横になる。
「あぁ。」
その姿に表情を緩ませながら、白哉はそれを許可したのだった。


「失礼します。隊長、青藍どこにいるか知りませんか・・・って居た。」
そんなことを言いながら恋次が隊主室に入ってきた。
「急ぎの用か?」
「いえ。隊士たちが青藍の舞がどうのこうのって・・・。」
「そうか。今は休憩中だそうだ。」
「そうみたいっすね。・・・避難してきたのか。」
恋次は長椅子で眠る青藍を見て言った。


「昨日、大丈夫でしたか?」
「何がだ?」
「何がって・・・。隊長が?」
昨日の話を聞いているらしい。
恋次なりに心配しているのだろう。


「貴様に心配される謂れはない。」
白哉はそれに気が付きながらも素っ気なく言った。
「大丈夫そうっすね。」
その雰囲気に恋次は安心したように言った。


「・・・それにしても熟睡ですね。」
恋次はそう言って青藍の顔を覗き込む。
「起こすなよ。今日の青藍は少々不機嫌だ。寝かせておけ。」
「はは。そりゃあ大変ですね。これ、書類です。お願いします。」
「あぁ。」


「じゃ、俺はこれで失礼します。」
恋次は一礼すると隊主室を出て行った。
白哉もまた、仕事を再開する。
時折、すやすやと眠っている青藍に目を向けながら。

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