色彩
■ 21.私の責任

さて、あとは父上をどうにかしなければ。
青藍はそう考えて、白哉への書類を先に仕上げる。
『僕、ちょっと席を外すよ。』
「解りました。」
そして隊士にそう声を掛けると、その書類をもって、隊主室へと向かった。


きっと、一人で抱え込もうとしているだろうから。
僕だって六番隊の一員なんだ。
父上のために働きたいし、父上の役に立ちたい。
僕にも痛みを分けて欲しい。


『失礼いたします。』
青藍は隊主室の前に立ってそう声を掛ける。
「入れ。」
いつもより硬い声が返ってきたことに内心苦笑しつつ、青藍は中に入った。
『父上、こちらの書類、確認をお願いします。』
そう言って白哉に書類を差し出す。


「あぁ。」
白哉は其れを受け取りすぐに目を通し始めようとした。
『と、その前に父上。ちょっとこちらへ。』
青藍はそれを制してその手から書類を取り上げて机に置くと、白哉の手を取って長椅子へと引っ張っていく。
白哉は目を丸くしつつも、大人しくそれに従った。


『父上、座ってください。』
青藍はそう言って白哉を座らせると、自分もその隣に座る。
『父上。』
「何だ?」
『言葉が少なかった自覚はありますね?』
青藍は確認するように言った。


「・・・あぁ。」
『それならいいです。以後気を付けてください。僕が居なかったらどうなっていたことか・・・。』
青藍はそう言ってため息を吐いた。
「善処する。」
そんな青藍を見て、白哉はすまなそうに言った。


『それで父上、何か言うことは?』
「・・・悪かったと、思っている。」
白哉は俯きがちに言った。
『そんなことは解っています。他に何かあるでしょう?』


「すべて私の責任だ。」
白哉は自分を責めるように言った。
『えぇ、そうです。隊長としての模範解答ありがとうございます。でも、僕が聞きたいのはそれではなくてですね・・・。』
青藍は呆れたように言った。


「?」
そんな青藍に白哉は首を傾げた。
『父上だって、悲しいのでしょう?悔しいのでしょう?苦しいのでしょう?』
白哉の心情を推し量ったのか、青藍は顔を歪めつついった。
「だが、それは私の責任で・・・。」


『そうだとしても!僕は父上にその痛みを分けて欲しいのです。一人で抱えないでください。それでは父上が、辛いだけです。僕は六番隊の第三席です。そして、父上の息子です。父上にはまだまだ敵いませんけど、父上が背負っているものを分けてください。一人で背負わないでください・・・。僕はそんなに頼りないですか?』
青藍は泣きそうになりながら言った。


「・・・違う。すまなかった、青藍。」
そんな青藍に白哉は申し訳なさそうに呟く。
『じゃあ、もう少し弱音を吐いてください。隊士たちの前では無理でも、僕や母上や茶羅や橙晴に。ルキア姉さまにだって。僕らはそれを受け止めます。一人で溜め込まないでください。』


「・・・あぁ。」
白哉は泣きそうな青藍の頭に手を伸ばす。
そしてあやすようにそっと撫でた。
「本当は・・・先ほどの隊士の言葉が、痛かったのだ。」
そのまま白哉は話し始める。
『はい。』


「だが、掛ける言葉もなかった。言い訳するつもりもない。隊士の殉職は私の責任だ。あれを任務に向かわせたのは私なのだから。それが分かっているからこそ、少し辛い。」
『はい。僕も辛いです。部下を失うことがこれほど辛いことだとは思いませんでした。覚悟はしていたつもりなのですが。』


「そうだな。だが、私よりも辛い者がいる。私の責任であるからこそ、私に好きなだけ当たればいいと思った。それで彼奴の痛みが軽くなるならと。」
『僕はちゃんとそれを解っていますよ。』
「・・・そうか。」


『父上は不器用です。』
「・・・自覚はある。」
『言葉が少なすぎます。』
「・・・あぁ。」
『あと表情が変わらなさすぎます。』
「・・・。」
叱るように言う青藍に白哉は黙り込んだ。


『それから、天然です。』
「・・・?」
方向性が変わったことに白哉は首を傾げた。
『父上、さっきのことで隊士に嫌われたと思っているでしょう?』


「・・・違うのか?」
『当たり前です!聞きましたよ、父上。お盆になると、殉職した者たちに花を手向けているそうですね。毎年花を買っているのはそのためだったのですね。』
「・・・何故知っているのだ。」


『隊士たちが話してくれました。父上が殉職した者の両親の元へ謝罪に行ったことも。』
青藍の言葉に白哉は目を丸くする。
「気づかれていたのだな・・・。」
そして、気まずそうにそう言った。


『そうですよ。隊士たちはそれが嬉しかったと言っていましたよ。』
そんな白哉に青藍は微笑みながら言った。
「・・・そうか。」
『父上が隊士たちのことを思いやっていることを解ってくれる者もいます。解らない者がいてもそれを解らせてくれる者がいます。』
「あぁ。」


『父上が不器用なことも、言葉が足りないことも、隊士たちは解ってくれているのですよ。父上の思いをちゃんと知ってくれています。先ほどの隊士も仲間の死を前に動揺しただけです。』
「解っている。」


『それならばいいです。後であの隊士が謝りに来るかもしれませんが、父上もたまには素直になってくださいね。』
「・・・咲夜と同じことを言うな。」
白哉は拗ねたように言った。


『ふふふ。拗ねないでください。』
「拗ねてなどおらぬ。」
『そうですか?では、僕は仕事に戻ります。』
「あぁ。・・・礼を言う、青藍。」


『珍しく素直ですねぇ。』
「素直になれと言ったのは青藍ではないか・・・。」
『あはは。お礼を言われるほどのことではありませんよ。では、僕はこれで。』
青藍はそう言って隊主室を出て行く。
そんな青藍の背中を白哉は眩しそうに見つめていたのだった。

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