■ 17.秘密の話
『・・・さて、そろそろ上がりましょうか。僕、もうのぼせてしまいそうです。』
「そうだな。顔が赤い。」
白哉は微笑みながら言った。
『そう言う父上だって。』
「そうか?」
『そうです。ほら、父上も上がりますよ。お風呂で溺れられては困ります。』
「私を何だと思っているのだ・・・。」
青藍の言葉に不満げな顔をしつつも白哉は湯船から出る。
『ふふふ。母上の真似です。』
「何だそれは。」
青藍の言葉に白哉は怪訝な顔をする。
『秘密です。』
青藍はそう言って微笑み、風呂場から出ていく。
白哉は首を傾げながらも青藍の後を追ったのだった。
「青藍。」
『はい?』
着替えつつ白哉は青藍に声を掛けた。
「何故、誰かを好きになる云々を私に聞いたのだ?好いた者でも出来たのか?」
白哉は心なしか楽しそうである。
『ふふ。違いますよ。清家に見合いの写真を見ておけと言われましてね。どういうことなのだろうなぁ、と思っただけです。僕はまだ、誰かを好きになったことなどありませんから。』
「そうか。好いた者が出来たのならば、手を伸ばしていいのだぞ。朽木という名を気にする必要はない。」
『はい。・・・それで、父上。』
「なんだ?」
『父上も見合いの写真はたくさん送られてきたのですよね?』
「まぁな。」
『全部、目を通しましたか?』
「・・・ほとんど見ていないな。清家にはすべて見ろと言われたが。」
白哉は悪戯に笑う。
その笑顔はどこか少年のようだ。
『ふふ。そうなのですね。じゃあ、僕もそうしましょう。清家には秘密にしておいてくださいね?』
「あぁ。私がほとんど見ていなかったことも清家には内緒だ。」
『はい。』
二人はそう言って微笑みあった。
突然ガラリと脱衣所の扉が開かれる。
「君たち、遅いぞ!」
そういって咲夜が現れた。
「咲夜。」
『母上・・・。突然開けるのはどうかと思います。僕らが裸だったらどうするつもりなのですか。』
そんな咲夜に青藍は呆れたように言った。
「いいではないか。君たちの裸を見てどうこうする私ではない。それに、もう着物を着ているではないか。」
『そう言う問題ではないでしょう・・・。』
「それで、白哉はなんでそんなに楽しそうなのだ?」
白哉の様子がいつもと違うことに気が付いたらしい。
「そうか?」
「あぁ。何か楽しかったのか?」
「さぁな。」
白哉はからかうように言った。
「なんだそれは。青藍、白哉に何かしたのか?」
『何もしていませんよ。ねぇ、父上?』
「そうだな。」
「・・・じゃあなんでそんなに白哉は楽しそうなのだ。」
咲夜はそう言って不満げな顔をする。
『あはは。拗ねないでくださいよ。ちょっとお話をしただけです。』
「何の話だ?」
『ふふ。母上と父上の話です。』
「それだけじゃないだろう。」
咲夜は青藍をじっと見つめる。
『そんなことはありません。』
青藍はそう言って微笑む。
「私には話せないことなのか?」
『あはは。』
「笑って誤魔化さない!」
『ふふ。誤魔化してなどいませんよ。』
「白哉!一体何を話したのだ?」
「私は咲夜との馴初めを話しただけだぞ。」
『そうですね。父上が母上をどんなに愛しているか、聞いただけですよ。』
青藍と白哉は共犯者めいた雰囲気をだしながら言った。
「・・・どうみてもそういう雰囲気じゃないだろう。」
楽しそうな二人とは反対に咲夜は膨れる。
『あはは。本当ですってば。ね、父上。』
「そうだな。」
それを見た二人はさらに楽しそうだ。
「・・・納得がいかない。」
『ふふふ。』
そんな咲夜に青藍は笑みを浮かべるだけだ。
「まぁ、いい。私はお腹が空いたのだ。君たちの長風呂のせいで皆お待ちかねだぞ。」
『それはすみません。では、行きましょうか、父上。』
「あぁ。」
「・・・だからなぜそんなに仲が良いのだ。」
『僕と父上はずっと仲良しじゃないですか。』
「白哉と私の方が仲良しだ。」
『ふふふ。そうですね。ほら、母上、拗ねていないで行きますよ。姉さまたちが待っているのでしょう?』
「行くぞ、咲夜。あまり待たせては可哀そうではないか。」
「・・・。」
どんなに聞いても話してはくれなさそうな二人に咲夜は黙るしかなかったのだった。
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