色彩
■ 16.愛が溢れた瞬間

「・・・初めて、咲夜を失うと思った。咲夜が姿を消していた間、咲夜が死んだと言われても信じたことなどなかったのに。咲夜が死ぬのではないかと思った時、いつもそこにある存在が私にとってどれほど大きな存在であるか、気が付いたのだ。その存在がなくなると考えたら恐ろしかった。他の誰かを失いそうになった時よりも。」
白哉の言葉に青藍は目を丸くする。


『父上にも怖いことがあるのですね。』
「私とて他の者と同じように失うのは恐ろしい。」
白哉は苦笑するように言った。
『それで?』
「咲夜は一週間ほど目を覚まさなかった。目を覚ました咲夜は自分のしたことを悔いて、声を上げて泣いた。」


『母上が?』
「あぁ。自らの斬魄刀である森羅を壊したこともだが、自分の父を手にかけたことを悔いていた。咲夜は生まれてすぐ父親に殺されそうになった。だから、その父親に愛されているとは思っていなかったのだ。しかし、鏡夜殿は咲夜を愛していたと、そう言って微笑みながら息を引き取った。」


白哉は其れを思い出したのだろう。
その瞳に悲しげな感情が映る。
きっと、辛かったに違いない。
青藍もまたそれを想像して表情を悲しげなものにする。


「ずっと愛してくれていた親を、長年探し続けた親を、自らの手で斬らねばならなかった咲夜の心情は、想像をすることすらできぬ。子どものように泣く咲夜をみて、守りたいと思った。その姿が愛おしかった。」
そういう白哉の瞳は優しいものである。


『それが、始まりなのですか?』
「そうだな。それからは咲夜の声を聴くたび、笑顔を見る度、姿を見るだけでも、私の心が落ち着かなくなってしまった。」
『母上に恋をしたから?』


「あぁ。緋真以外に愛する者が出来るなど思ってはいなかった。緋真以外を愛そうとも思っていなかった。」
『ふふ。父上のことだから、一人で悩んでいたのでしょう?』
青藍の問いに、白哉はふ、と目だけで笑う。


「迷いはあった。緋真を裏切ることになるのではないかと。だが、気持ちを抑えることも出来なかった。緋真の時もそうだったからな。心と体が咲夜を求める。だから、咲夜を愛すると決めたのだ。」
『・・・怖くはなかったのですか?自分が愛しても、相手が同じように愛してくれるとは限らないでしょう?』


「確かにそうだな。だが、そうだとしても何十年でも待つつもりだった。あの咲夜だからな。色恋事を意識させることから始めなければならなかった。」
『なるほど。それは確かに長期戦ですね。』
「それ故、どんな手を使ってでも手に入れるつもりだったのだ。咲夜の私に向ける家族の情を愛情としてすり替えることすら考えていたからな。」
白哉はそう言って悪戯な瞳をした。


『あはは。さすが父上です。でも、母上はすぐに父上を好きになったのでしょう?』
「私が想いを伝えたからだろう。それから咲夜は私を愛していると自覚したらしい。」
『そうなのですか?何十年も待つつもりであったのに、何故、想いを伝えたのです?』
青藍は首を傾げる。


「・・・咲夜が、あまりにも綺麗に微笑むからだ。私の名を呼びながら。それを見たら体が勝手に動いたのだ。気が付いたら咲夜を抱きしめていた。想いを伝えていた。」
『ふふ。母上はさぞ驚いたことでしょうね。』
「そうだな。余程驚いたのだろう。無反応で不安になったくらいだ。」
『母上らしいですね。』
「あぁ。」

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