色彩
■ 30.強くありなさい

『烈先生!双子を野放しにされては困ります!』
「あら、いいではありませんか。この私が二人の護衛をしているのですから、問題ありません。」
悪びれもなく言われて、青藍は言葉に詰まる。


『・・・で、でも、駄目です!朽木家の護衛が困ります!睦月が怒るんですから!叱られる護衛たちが可哀そうです!』
頬を膨らませた青藍に卯ノ花はおかしげに笑って、その頬に掌を添える。
『烈先生・・・?』
首を傾げたその瞳がいつも通りであるのを見て取って、卯ノ花は満足げに頷いた。


「想いを向けられることには耐性が出来たようですね、青藍。貴方は今でも、好意を向けられることが得意ではありませんから。」
全てを見透かしたその言葉に、青藍は拗ねたように唇を尖らせた。
『・・・僕だって、頑張っているんです。このままじゃ、生活に支障が出ます。』
「ふふ。そうですね。よく頑張りました。まだ先は長いでしょうが、今のところは及第点を差し上げます。成長しているのは、体だけではないようですね。」


『僕はまだまだ成長中です。・・・睦月への用事は済んだのですか?』
話を変えた青藍にくすくすと笑って、卯ノ花は彼の頬から手を離す。
「はい。それで、橙晴と茶羅を迎えに来たのですが、何やら面白いことをしていたようですから。」


「青藍兄様の真似をしていたのです!」
「茶羅は相手の役をやりました!」
「えぇ。見ていましたよ。名演技でした。・・・ですが、青藍の言う通り、相手の方に失礼になることもあります。それだけは理解してくださいね。」
やんわりと窘められて、双子は素直に頷く。


「「はい。烈先生。」」
『・・・僕の言うことは聞かなかったくせに、烈先生の言うことは聞くんだから。』
青藍が呟けば、教室に笑いが満ちた。


「ふふ。青藍も、この二人の言葉をちゃんと受け止めてくださいね。二人の言う通り、青藍はよく狙われるのですから。」
『解っています。僕だって、あんな目に遭うのはもう嫌です。・・・父上が見つけてくれなかったら、どうなっていたことか。』


・・・まだ、思い出すと恐怖が蘇るのですね。
青藍の瞳に恐怖が映り込んだのを卯ノ花は見逃さない。
彼の意識がその恐怖の中に沈む前に、ぽん、と彼の背中を叩いて、意識をこちらに向けさせた。


「朽木隊長も、咲夜さんも、京楽隊長も浮竹隊長も、他にもたくさんの者たちが、貴方を探しました。もちろん、私も。貴方が攫われたあの三日間、私たちは寿命が縮む思いでした。貴方のことが心配で、貴方を守れなかったことを何度も悔やんだ。見つかったという連絡が来たときには、本当に安心しました。」


『はい。本当に、ご迷惑をお掛けしました。・・・本当は、邸の中で大人しくしている方が、いいのだと思います。でも、僕は、守られるばかりは嫌です。いつまでも、あの時の僕のままで居るわけにはいかない。僕はもう、無知で無力な幼子ではない。』
真っ直ぐに言った青藍を、卯ノ花は眩しげに見つめる。


「えぇ。・・・強くおなりなさい、青藍。そして、何者よりも賢くなりなさい。その心は、美しく、気高く、誇り高くありなさい。貴方が目指すと決めた背中は、その先にしかありません。」
『はい。』


「大丈夫ですよ、青藍。貴方ならば、あの背に追いつくことが出来ます。・・・ですが、弱さを隠し過ぎて、己の心に鈍感になるところまでは、似てはいけません。いいですね?」
悪戯に言った卯ノ花に、青藍は笑う。


『ふふ。はい。・・・ありがとうございます。烈先生は、何でもお見通しですねぇ。』
「生まれる前から知っているのですから、解らないはずがありません。」
卯ノ花の言葉に、確かにその通りだ、と青藍は苦笑するのだった。
[ prev / next ]
top
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -